『昭和堂薬局』

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生体バリア5 ~腸内細菌由来代謝産物による生体バリア調節~

 人の腸内細菌叢は、最新の試算によると40兆個程度の腸内細菌が存在すると考えられています。これは成人の全細胞数をやや上回る数字です。腸内細菌叢は、我々宿主の消化酵素では消化できない食物繊維などを発酵分解し、二次代謝産物として多様な低分子化合物を産生します。このように腸内細菌叢は見かけ上1つの代謝器官として機能し、我々の体のエネルギー代謝に必要な栄養素や補助因子を供給しています。

 

 主な腸内代謝物である短鎖脂肪酸は、カルボキシル基をもち、炭素数6以下の飽和脂肪酸の総称で、直鎖のものと分枝鎖の化合物が存在します。直鎖の短鎖脂肪酸は、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸の5つです。アミノ酸からは分枝短鎖脂肪酸であるイソ酪酸、イソ吉草酸および2-メチル酪酸などが産生されます。

 

 詳細は割愛しますが、これらの腸内細菌由来の代謝産物によって、上皮バリア機能は高度に調整(強化)されています。そのため、食物繊維などに富むバランスの取れた食事を摂取し、腸内細菌叢を健全に保つことが、上皮バリア機能の維持に重要と考えられています。偏食や抗菌剤などにより腸内細菌のバランス異常が生じると、上皮バリア機能低下により腸管壁浸潤症候群(リーキーガット症候群)の発症につながり、本来管腔内に留まるべき菌体成分や代謝物が体内に流入し、慢性炎症や感染症のみならず、自閉症スペクトラム障害やメタボリックシンドロームなどの疾患発症リスクが高まります。

 

 これまで、生体バリアについてお話してきましたが、このバリアが壊れてしまって病気になってしまうと、元の健康な体に戻すことは容易ではありません。食事はもとより、生活習慣やストレスの軽減に努め、健康な体を維持していきましょう。

 

 次回は、高脂肪食によって腸内細菌叢のバランスが崩れ、肝がんに発展していくメカニズムの最新情報をご紹介いたします。


昭和堂薬局 | 2017年8月16日

 

生体バリア4 ~生体は共生菌を調節して身体を守っています~

 これまで、3回にわたり生体バリアについてお話してきました。私たちの体を守っていく上でバリア機能が重要であることはお分かりいただけたと思います。

 

 また、健康な状態では腸内細菌叢と我々の体は共生関係を築いています。これまでこのコラムでも腸内細菌叢についてお話してきましたが、今回は我々生体が外からの異物を体に入れないようにしながら、腸内細菌をコントロールしている仕組みについて触れたいと思います。

 

 前々回に上皮細胞について簡単に触れましたが、その中でパネート細胞が抗菌ペプチドを産生していると述べました。パネート細胞は感染刺激などによって抗菌ペプチドを分泌し、病原体を死滅させます。一方で共生関係にある腸内細菌には対しては殺菌活性をほとんど示さないのです。しかし、このメカニズムが異常をきたすと腸内細菌叢の構成異常を起こし、様々な疾患の発症原因になってしまうのです。

 

 また、腸管にはIgA抗体が存在します。腸管免疫は病原体を排除するだけでなく、免疫全体の恒常性の維持に重要な役割を担っています。その腸管免疫の中で主要な要素の一つがIgA抗体なのです。腸管粘膜固有層から腸管に分泌され、食べ物などと一緒に入ってきた病原菌やその毒素と結合し中和します。もう一つの機能は、腸内常在菌を認識しそれと結合し常在腸内細菌が粘膜固有層に過剰に侵入しないようにしています。ある報告によると腸内細菌の中で腸炎を誘発する細菌とIgA抗体は結合していることが言われています。ほかの報告では、マウス腸管から単離した高親和性IgA抗体をマウスに経口投与することによって腸内細菌叢を改善し、腸炎などの病態を抑制することが示されました。

 

 人の体はいろいろなメカニズムで恒常性を維持し病気にならないようにしています。しかし、食生活や生活習慣の乱れで恒常性維持機能が壊れると病気になっていきます。人それぞれではあると思いますが、ちょっとした工夫で生体バリアを維持し病気を予防できると良いですね。


昭和堂薬局 | 2017年8月2日


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