『昭和堂薬局』

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冬の養生法

東洋医学では四季それぞれの特徴にあった養生法を考えます。
 季節に背くようなことをすると、それぞれの季節に応じた病気に繋がると考えられています。

 

 冬は厳しい寒さで陽気が抑えられ、陰気が盛んになる季節です。万物が静かに落ち着いている「陰」の季節は、早寝、遅起きをし、活発な活動でエネルギーを消耗することは避け、「蓄える」ことを第一にゆっくり過ごす季節です。また、冬の寒さは自然界の邪気「寒邪」となって身体に侵入し、さまざまな不調を引き起こす原因にもなるので注意が必要です。寒邪の侵入によって身体が冷やされると、カゼ、関節の冷えや痛み、四肢の冷えなどの症状が現れます。

 

人体の五臓の中で、冬と関係が深いのは「腎」
  「腎」は人体の生命活動を維持する栄養物質である「精」を貯蔵し、全身に精力を与えて根気を生み出します。また、免疫力や防衛力の要であり、心身の成長発育を促す働きがあります。同時に、生殖活動を生み出します。つまり腎は人体の生命活動を維持するエネルギーを蓄え、全身にこれを供給し、健全な働きを維持する役目を担っているのです。そのため、腎が弱ると、生命エネルギーが衰えて気力、体力も低下し、活動量も落ちてしまいます。

 

 もうひとつ重要な働きが、腎は体内の水分を蓄え全身に分布させ、尿を生成し排泄して水分代謝を管理しています。さらに腎は、骨と髄の成長発育と密接に関係しその異常は、その窓口である耳に表れます。古典では、「腎気は耳に通じ、腎和すればよく五音を聞く」(霊枢脈度篇)とされ、腎と耳が密接な関係にあることを説明しています。

 

冬は「鹹味(かんみ)」(塩辛い味)が必要!
 冬は腎臓が一番働く季節と述べましたが、漢方で言う「腎」を助ける味、冬に必要な味は、「鹹(かん)」という味で、これは塩辛い味です。腎臓を助ける味は「ミネラル」であると漢方の世界では言われています。現在の食塩・純度の高い塩化ナトリウム(NaCl)の味を指すのではなくて自然のミネラルを含む塩と考えたほうがよいようです。

 

 寒さの厳しい北海道・東北と一年を通して暖かい南九州・沖縄の食生活を比べると、大きく異なるものの1つが塩分の摂取量です。北国では味噌やしょうゆの塩分濃度が高く、漬け物や佃煮、魚の塩漬けなど保存のためにも塩をふんだんに用いた郷土料理がたくさんあります。それは、塩気の多い食べ物には、体を温める作用があるからです。血液内の塩分濃度が高まるとエネルギーの燃焼作用が盛んになり体温が上昇するのです。塩分の多量摂取は寒さに耐え、体が冷えるのを防ぐための人間の知恵なのです。冬に弱りやすい腎を補うのも、塩をはじめ味噌やしょうゆなどの塩辛い味である鹹味の食材です。鹹味は大小便の排泄に不可欠な味であり、「腎・膀胱」の機能を補い泌尿器の働きを助けて、体内の水分代謝を調整する働きがあります。腎気を養い、骨髄を丈夫に保ち衰えたエネルギーを回復するためにも無くてはならないものです。ほかの食物では取れないナトリウム、マグネシウム、亜鉛等のミネラル類の補給源でもあるのです。

 

 ところが、現在では塩分が必要以上に敵視されています。「高血圧に塩は駄目じゃないか!」といわれます。しかしながら、天然塩を代表に、バランスの取れたミネラル塩や醗酵物の塩を適量取るには問題はありません。むしろ化学薬品のような塩化ナトリウムを食塩として取ることが問題なのです。天然塩の中には、苦汁(マグネシウム)が入っており、これは心臓を守り助ける苦味となります。化学薬品の塩化ナトリウムの鹹味だけに較べ、天然塩は鹹味に苦味が入ることにより血圧を上げにくくするのです。

 

 また鹹味には、硬いものをやわらげる作用があり、体にできたしこりを解消する効果もあります。昔の人は肩が凝ると入浴時に塩を肩にすり込んだそうです。北国の人々は、「寒邪」によって血管も毛穴も収縮し、水分代謝をコントロールするために、「腎」に過剰な負担がかかります。それを防ぐために、体を温めて腎を保護する鹹味の食べ物を必然的に多く取り入れてきたのです。


昭和堂薬局 | 2024年11月5日


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