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今、注目されている慢性子宮内膜炎

 今、不育症や着床障害の原因として慢性子宮内膜炎や子宮内フローラが注目されています。
 しかし、まだ慢性子宮内膜炎や子宮内フローラ検査の診断基準は定まっていないのが現状です。盛んに研究されていることは事実ですが、子宮内フローラが正常な症例と異常な症例で妊娠率に有意差があったとする研究も今のところ少ないようです。

 

 着床するために子宮内の免疫細胞が関係していることは事実です。そのことから考えると、子宮内フローラが着床のために何かをしていることも事実なのではないかと思います。

 

 そのことから考えると、ご夫婦で腸内環境を整える食生活や生活習慣、或いはプロバイオティクスやプレバイオティクスを飲んでみるのもいいのではないかと考えます。

 

 実際に、ご夫婦の健康面から見てみると、腸内細菌叢がいい状態が、将来の病気の予防にもなるのですから、やって損はないはずです。

 

 また、生まれてくる子供の腸内環境も意識していただきたいです。子供の腸内細菌叢は、胎児期から生後2歳くらいまでに確立します。また、お母さんからの影響が大きく、出産方法(自然分娩か帝王切開)や母乳か人工乳かなどいろいろな影響を受けます。その腸内細菌叢がいい状態だと健康な子ともに成長していくでしょう。

 

 子供の腸内細菌叢が、あまり良くないとアレルギー疾患や免疫系、炎症性腸疾患などのリスクが高まります。

 

 あまり、脅かしたくはないのですが、腸内細菌叢が脳の発達に重要なことが言われています。腸内細菌叢の異常と自閉症スペクトラムの関係が研究されています。

 

 自分達の未来のために、少し腸内環境のことも気にかけていただきたいと思います。


昭和堂薬局 | 2023年10月2日

 

貴方の便はどのタイプ?

 大便は健康のバロメーターです。腸の環境の変化が便の状態に現れるのです。食べた物によって便が変化することを経験したことがありませんか?
 大便の大部分は水分で健康な便で80%を占めています。その水分を除いた3分の1が食べカス、3分の1が新陳代謝によってはがれた腸粘膜、残り3分の1が腸内細菌です。そして食べた物やストレスなどで腸内環境が変化し、その腸内環境が大便の状態として現れるのです。
 戦後の日本人は食物繊維を1日およそ27gも摂取していました。しかし、今の日本人はその半分以下の12gしか摂取できていません。その結果大便の量が減ってしまっています。量が減っただけでなく腸内細菌にも変化を与え、それまであまりなかった病気が増えてきています。

 

 では、どんな大便が良いのでしょうか?
 大便の色は茶色でやや黄色がかっています。黄色は胆汁の色で、脂質が多い肉などを多く食べると胆汁が多く出て腸内がアルカリ性に傾き褐色になり、腸内細菌の悪玉菌が増えます。穀物、豆類、野菜を多く食べると酸性に傾き大便は黄色くなります。食物繊維が多くなると大便は粘り気がなくボソボソとほぐれやすくなります。こんな感じが良い便で、黒っぽくネバネバした便は良くない便です。
 大便の色が変化すると大便の臭いやガスの臭いも変わります。それは食べた物で腸内細菌が変化するためです。腸内細菌には善玉菌と悪玉菌、それらのどちらでもない菌(日和見菌)がいます。肉や加工食品などを多く摂ると悪玉菌が増えて大便やガスが臭くなり粘りが多い黒っぽい便になります。
じゃあ、悪玉菌を無くせばいいではと思うかもしれませんが、そんな簡単なものではありません。腸内細菌は善玉菌や悪玉菌のバランスが大切なのです。善玉、悪玉というネーミングが体に必要なものと不必要なものというイメージになりますが、悪玉菌も体には必要なのです。
 また、肉などで悪玉菌が増え、この結果腸内環境が悪くなるのであれば肉を食べなければいいのではと思いますが、これも間違いで、食もバランスが大切です。タンパク質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル・食物繊維がバランスよく摂れないと体に必要なものが不足してしまします。
黄金色でバナナのような形の臭わない大便になるように、食のバランスを整えて心身の健康を手に入れましょう。毎日の大便を観察し、その前にどんな物を食べたか考えて下さい。いい便にするための食がきっと見えてきます。
 どうしても早くいい便にしたいという”せっかちな人”は腸内環境を整える健康食品を…

 

 

〇便の硬さや形状から腸の状態を推測するブリスとスケール
タイプ1: 木の実のようなコロコロした固い便(通過しにくく、黒くなることがある)
タイプ2: ソーセージ状ではあるがゴツゴツした固い便
タイプ3: 表面にひび割れのあるソーセージ状(黒くなることもある)
タイプ4: ソーセージやヘビのように滑らかで柔らかい(平均的な便)
タイプ5: 柔らかい小塊で、形がはっきりしている
タイプ6: 小片が混じって周囲がデコボコした泥状の便(下痢気味)
タイプ7: 全体が水様で固形物がない便(下痢)
タイプ1とタイプ2は便秘を示し、タイプ3とタイプ4は水分を多く含まず排便しやすい理想的な便、タイプ5は食物繊維の不足を示し、タイプ6とタイプ7は下痢を示します。
最初の研究では、このスケール(尺度)で調査した集団では、女性ではタイプ1とタイプ2の便が多く、男性ではタイプ5とタイプ6の便が多く見られました。さらに、直腸テネスムス(不完全な排便感)を報告した被験者の80%がタイプ7でした。

画像は、日本中医薬研究会「胃腸は健康の要」ー脾のはなし より

 

 店頭に立っていると、『便秘のお薬ください。』とおっしゃる方が非常に多いです。さらに、その大半の方は『漢方の便秘薬って優しんですよね。』なんておっしゃいます。この言葉をかけられるとすごく不安を覚えます。確かに、当店でお勧めする便秘薬は、お腹が痛くなりにくく、しっかり効いてくれるものをご提案していますが、漢方薬とはいえ、下剤は下剤です。お薬の力で便を出しているにすぎません。
 便秘の原因には、食生活をはじめ生活習慣や社会的ストレスなどが関係しています。これらの要因に長くさらされることで、腸内環境が劣悪化し、腸がうまく働いてくれなくなってしまっているのです。さらに、下剤を使い続けることも、腸がうまく働かなくなる原因となってしまいます。
 『腸の働きって何?排便してくれるとこでしょう?』と思われる方も多いでしょう。確かに、便をつくって排泄するだけなら、下剤を使い続けることでもいいかもしれませんが、腸には他にも重要な役割があります。そのひとつに免疫器官としての役割(腸管免疫)です。人間の免疫力の60%以上が腸管免疫です。腸内環境が悪いということは、免疫のバランスが崩れ、アレルギー(花粉症・アトピー・喘息など)などの免疫疾患を引き起こす可能性が非常に高いといえます。また、抵抗力が落ち、風邪を引きやすくなっている人もいます。
 また腸は、老廃物を排泄するだけでなく、必要な栄養分を消化吸収する器官でもあります。血行が良く、肌のキレイな方は、腸管からの栄養補給がスムーズな方がほとんどです。
 腸を単なるゴミ(老廃物)溜めだと考えて、掃除しないでいると、美肌が得られなくなるだけでなく、腸管内に悪玉菌が増殖して腐敗物質を産生し、それが血液循環に入り込み、血流が悪くなり、血栓ができやすい体質となり、高血圧・動脈硬化や肝機能障害など様々な病気を引き起こしてしまいます。
腸は老廃物の処理だけでなく、私たちの健康維持に大きく関わっている器官です。腸内環境を変えることは可能です。まずは、毎日便通がある方でも、出ている便の状態をしっかり観察して、腸の環境がどんな状態なのかチェックしてみてください。
 目指す便は『臭みがなく黄金色でバナナ状のふわりと浮く便』です。


昭和堂薬局 | 2022年11月1日

 

脂質の摂り方のヒント

 最近、日本人も高脂肪食が多くなって体重増加から病気になってしまう人が多くなってきました。欧米の人ほどの肥満になることはないのですが、日本人は肥満に対する耐性が高くないため、病気になりやすい傾向になります。その脂質の摂り方を工夫することにより、肥満を軽減できるのです。今回は、その工夫のためのお話しをしていきます。

 

 三大栄養素の一つである脂質は、我々人が活動するためのエネルギー、生体膜(細胞膜)の構成成分、生理活性物質の減量など様々な働きを担っています。脂質の主な構成成分である脂肪酸は炭化水素基の長さや二重結合の数や位置によって多くの種類が存在します。また、中性脂肪やコレステロールエステル、リン脂質、糖脂質などの脂質の構成成分になっています。

 

 脂肪酸の中でn-3系多価不飽和脂肪酸やn-6系多価不飽和脂肪酸は、我々人の体内では作ることができず、必須脂肪酸として食事から摂取する必要があります。n-6系多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸やn-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、シクロオキシゲナーゼ、ポリキシゲナーゼ、シトクロムP450モノオキシゲナーゼなどの酵素により脂質メディエターに代謝されいろいろな働きをしています。

 

 人の体で熱産生をしている組織は、褐色脂肪組織(皮下脂肪)です。この褐色脂肪組織の高い熱産生能は褐色脂肪細胞内のミトコンドリア内膜上に存在する脱共役タンパク質1(UCP1)の機能によります。近年、特定な刺激により白色脂肪組織(内臓脂肪)にもUCP1が発現して高い熱産生能を示すベージュ脂肪細胞がエネルギー代謝に関わっていることが明らかになりました。

 

 これら褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞が担っている代謝機能は、肥満や肥満による代謝異常症の予防や改善の可能性の指標として期待されています。また、食品中の脂肪成分による機能調整機構の存在が明らかになってきています。

 

 動物実験ではありますが、魚油(n-3系多価不飽和脂肪酸)摂取は高脂肪食接種によって誘導される体重増加を抑制し、褐色脂肪組織機能を亢進させることが解ってきました。また、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と褐色脂肪組織機能の関係を検討した研究はないのですが、n-3系多価不飽和脂肪酸や魚油の摂取で体重や体脂肪低下が観察された報告はあるようです。

 

 また、腸内細菌叢による食事からの脂肪酸代謝産物が脂肪組織の熱産生機能を調整していることも報告されています。

 

 メカイズムを詳しく書いてしまうと難しくなるので割愛しますが、n-3系多価不飽和脂肪酸と乳酸菌で肥満の予防や改善ができる可能性があるということです。但し、めちゃめちゃな生活習慣や食生活をしていたらうまくいかないでしょうけれど…


昭和堂薬局 | 2022年7月14日

 

「やすらぎ通信 令和4年 お盆」のコラムを執筆しました。

 新型コロナウイルス感染症が起こり始めて、2年半も経ってしまいました。現在もまだ収束には至っておらず、このままコロナウイルスと共生していかなくてはいけないのかもしれません。

 

 ウイルスや細菌などについてはさまざまの研究がなされていますが、今回は細菌について述べたいと思います。細菌は地球上の生物の1/2~1/3を占めているとされています。それは我々人間の体も例外ではなく、外部環境と接する皮膚や粘膜面には、膨大な数の共生細菌群(常在細菌叢)が定着しています。(下の表に体の各部位のおおよその菌の桁数をまとめてあります)特に大腸は細菌の生育に最適な環境であり、地球上のあらゆる環境中でもとびぬけた高密度で細菌群が棲息(せいそく)するとされています。その数は40兆個以上とされ、宿主の人間の細胞数よりも多いのです。また、細菌の数だけでなく、その多様性が人の健康にどのように影響しているのか。これまで多くの研究報告では、様々な菌の種類がバランスよく存在することがメリットをもたらし、病気になるときにはその多様性が低下することが報告されています。例えば、特定の菌が腸内で増殖すると相対的に菌数が減少します。これは病気の人に多く見られる状態です。一方でさまざまな種類の菌がいると多くのことに対応できる状況になるのです。


表 体の各部位の菌数 

部位 細菌のおおよその桁数
結腸(大腸) 10の14乗
歯垢 10の12乗
回腸(下部小腸) 10の11乗
唾液 10の11乗
皮膚 10の11乗
10の7乗
十二指腸(上部小腸) 10の7乗


 また、環境が改善して感染症が減少してもアレルギー疾患や自己免疫疾患増加しているのは、環境中の細菌が減少したことに起因されるという「衛生仮説」が存在し、そのことを科学的に証明する研究が盛んにおこなわれています。この衛生的な環境が現代病を増加させるとも言われる中、我々はこのコロナ禍において手指の消毒やうがいを行い、更には自分達の生活圏を消毒し身の周りの菌を減らしてきました。このことが後になって私たちの体にどんな影響を及ぼすのかは、計り知れないところです。(コロナ禍の影響は、この細菌のことのみではないのですが…)

 

人の疾患と腸内細菌叢
 基本的に健康であれば腸内細菌叢の頑健性は保たれています。一方で腸内細菌叢のバランスが乱れる要因はさまざまなものが知られています。

 

・偏った食事
 長期的な食習慣がその人の腸内細菌叢のタイプを決定しています。また、短期的にも極端に食事が変化すると、腸内細菌叢は変化することがわかっています。
・ストレス
 脳と腸は迷走神経でつながっており、脳がストレスを感知すると腸の蠕動運動が影響を受け、その結果腸内環境が変動し、細菌叢が変化すると言われています。また、ストレスによって副腎資質ホルモン(ステロイドホルモン)が消化管に分泌されて細菌叢を変化させているとも言われています。
・その他
 その他には、生活環境(田舎で暮らしているか都会で暮らしているか、これは細菌が多い環境か少ない環境がということです。食事と一緒に細菌が入ってきます。)、抗生物質などの薬の摂取、加齢などが知られています。

 

腸内細菌叢がもたらす疾患
 腸管は粘膜免疫の中心です。腸内細菌叢がその人の粘膜免疫に影響していることは多くの研究で分かってきています。その中で衝撃的であった研究は、腸内細菌叢が肥満にも関係する報告でした。それは太った人・痩せた人由来の細菌叢を無菌マウスにそれぞれ移植し、その後同じ食餌条件下で太った人由来の細菌叢を移植したマウスの方が太ることを示したものでした。また、この研究では太る原因は、太ったマウスは腸内細菌叢による食餌成分の代謝により栄養素がより多く供給されることで太ってしまうことが報告されています。
 この研究をきっかけに、腸内細菌叢と消化管疾患や代謝疾患、がん、免疫疾患、精神疾患、循環器疾患など多くの病気との関連が多数報告されています。

 

腸内細菌叢をどのように制御するのか
 健康を維持していく為に、いかにして腸内細菌叢をコントロールすればいいのか。基礎研究においての代表的な制御方法はプロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)やプレバイオティクス(オリゴ糖や食物繊維)の摂取と便移植法です。(便移植法はまだ通常の治療法にはなっていません。)
 数年前から多くの食品メーカーからいろいろなヨーグルトが発売され、ブームとなりましたが、これも腸内細菌叢が、病気に大きく関係していると分かった結果です。私たち日本人が腸内細菌叢を維持していくには、日本の伝統的な発酵食品を摂ることが一番いいのではないか、と私は考えています。長い時間をかけて伝統的な酵母菌や麹菌が、我々の腸内細菌叢を維持し健康を支えてきたのですから。だからヨーグルトではないのかなぁと…、と思ったりもします。

 

日本人には日本人特有な腸内細菌叢のタイプがあるのです。
 多くの日本人の腸内細菌を調べた研究では、いくつかのタイプに分類できました。
その中で病気になりやすいタイプの腸内細菌叢は、高たんぱく・高脂肪食(西洋食)を好んで食べている習慣がある人たちです。一般的に良い細菌叢の食事は、低たんぱく・低脂肪・高食物繊維の食生活でした。
 人間の3大栄養素であるタンパク質・脂肪・炭水化物は食生活にはある程度必要なのですが、偏ってしまうのはよくないことです。特に日本人は伝統的に食物繊維が多い食生活をしてきました。また、日本食は油の量が少ないヘルシーな食事です。いつもの食生活を見直し、その中に日本の伝統的な発酵食品をプラスする工夫をされたら宜しいのではないでしょうか。
私が子供の頃には、母親が自宅で白菜漬けやぬか漬けを作っていました。この夏、ひと手間かけてトライしてみてはいかがですか。添加物や菌を殺して出荷しているような工場で作られた漬物とは全然違うはずですよ。

 

主な発酵食品

豆類   : 納豆 醤油 味噌 豆板醤 豆腐ようなど

魚介類  : 鰹節 塩辛 くさや 魚醤 アンチョビ 酒盗など

肉類   : 生ハム サラミなど

乳製品  : チーズ ヨーグルト サワークリームなど

野菜・果物: ぬか漬け キムチ ピクルス ザーサイ メンマ かんずりなど

穀物   : 甘酒 米酢 黒酢 みりんなど

 

 日本で手に入る発酵食品です。この中から自分に合った発酵食品をいくつかとっていただけるといいと思います。


昭和堂薬局 | 2022年6月29日

 

子宮内細菌叢(子宮内フローラ)

 我々人間のさまざまな部位で常在細菌が注目されています。われわれ人間は細菌と共に生きています。常在細菌に助けられながら生活していると言ってもいいくらいです。
 以前は、子宮は無菌の状態だと考えられていました。しかし、1980年代に子宮内において細菌の存在を示唆する報告があり、その後、子宮内細菌叢の存在を裏付ける報告がなされました。
 近年は、細菌の解析技術の進歩により、子宮内常在菌の存在が明らかになりました。

 

 子宮内細菌叢の関する報告は多くありませんが、ラクトバチルス属が優位な状態が着床・妊娠維持に有益であることが言われています。
従来から皮膚・腸・口腔内などの細菌叢はよく知られています。また、その細菌叢の異常が糖尿病などの生活習慣病、アレルギーなどの疾患との関連が明らかにされています。膣内においてもその存在がよく知られており、その乱れが細菌性膣炎などお引き起こすとされています。

 

 子宮内細菌叢に関してはほとんどわかっていないのが現状ですが、構造的に腸と同じように、子宮内膜をムチン層が覆っているなどの共通点もあり、子宮内細菌がないかをしていることは明らかではないかと思われます。しかし、子宮内細菌叢がどのような状態が妊娠成立・維持に適しているのかはわかっていません。

 

 疫学調査では、腸内細菌叢が悪い状態になると妊娠中毒症や流産の原因になるという報告があります。また、同一人物の腸内細菌叢と膣内細菌叢は似ていると言われています。構造的に膣と子宮内細菌叢は似ていそうです。妊活中の方は腸内細菌叢をよくするようなことをしておくといいのかのしれませんね。


昭和堂薬局 | 2021年10月12日

 

日野にある善行寺の季刊誌「やすらぎ通信」より

 日野にある善光寺発行の季刊誌「やすらぎ通信」に掲載されたコラムを私が担当したので、ここでその内容を紹介させていただきます。

 

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり少しずつではありますが、一安心している方もいらっしゃるかもしれません。(引き続き感染予防はしなくてはいけませんが…)
 2019年末に中国から出現した新型コロナウイルス感染症。それから1年半たった今でもまだ収まる兆しすら見えていません。5月31日現在、日本の累計患者数746,933人。日本の人口当たりでは0.596%。死亡者数は13,059人で、人口当たり0.01%、感染者数当たりでは1.75%です。数字にするとそれほど多くない感じがしますが、近年これ程の感染症はありませんでした。

 

 人類の歴史においては、様々な感染症と戦ってきました。14世紀のヨーロッパで流行したペストが有名です。(余談ですが、この時、医師は逃げてしまいましたが、薬剤師が最後まで患者さんの対応をしたことで、ヨーロッパでは医師より薬剤師の地位が上なのだそうです)

 

 その後感染症の病原体や対処法がわかり始めたのが、19世紀後半と言われています。その頃からは感染症の死亡数も減少しています。しかし20世紀後半から、エイズやSARSのような「新興感染症」や結核やマラリヤのような「再興感染症」が問題となっています。そして、新型コロナウイルス感染症です。どうしてまた、感染症が問題になっているのでしょうか?
 ある程度克服したはずなのに…。

 

 前置きが長くなりましたが、このようなことが世界的に起こった背景には、もしかすると現代の食生活や生活習慣に問題があるのかもしれないと私は思っています。(アレルギー疾患が多くなっていることと同じようなメカニズムではと思います)

 

 我々人間は、多くの細菌と共存しています。皮膚や腸管などの粘膜に細菌は存在しています。その代表が腸管で、500~1000種、数は100兆~1,000兆個の腸内細菌が腸内細菌叢(フローラ)を形成し、我々人間と共生関係にあるのです。近年、この腸内細菌の生理的・免疫的役割が少しずつ解ってきています。この腸内細菌叢に影響を与えている物は、食事やその人の生活環境です。衛生的な環境が、アレルギーを多くしているとする説もあります。(あまり雑菌だらけなのも問題ですが…)。そこで、食生活を改善し腸内環境を整えて、病気にならない体づくりをご提案します。発酵食品の薦めです。日本人は昔から多くの発酵食品を摂ってきました。また、日本人は食物繊維も多く取っていたので、腸が長かったそうです。(胴長短足⁈)そして便も多かったらしいですよ。

 

 発酵とは一体何なのでしょう
 発酵とは、微生物の働きによって物質が変化し、人間にとって有益に作用することをいいます。微生物という目に見えない小さな生き物が働いた結果が「発酵」です。発酵を行う微生物のことを総称して「発酵菌」といいます。発酵菌は、発酵により香り成分や新しい味わい、色、栄養価を作り出します。それらの成分がとても美味しく、健康によく、食品の保存性を高めるため、私たち人間は古くから「発酵食品」を作って食べてきました。はるか遠い昔、アラビアの旅商人が山羊の胃袋で作った水筒にミルクを入れて旅立ったところ、数日後に水筒の中から独特の旨味のある白い塊が出てきました。これが発酵食品の起源ではないかと言われています。

 

 紀元前の中国の古書「周礼」や孔子の「論語」、日本最古の医学書「医心方」にも記述がみられる発酵食品は、洋の東西を問わず人々の食生活に影響を与えてきたようです。先人たちは発酵食品が身体にいいことを知っていたのですね。

 

 発酵食品は、その国の気候風土、産物、嗜好性が大きく反映されています。世界各国の民族性や信仰などと関わりを持ちながら、伝統的な食文化を作り上げています。

 

発酵のメリット
・香りや旨味が増す 

 発酵食品を美味しく感じるのは、発酵作用を行う微生物により、元の食材にはない独特の香りや味わいが生まれるからです。
・栄養価が高くなる 

 微生物が、食材を分解・発酵するときに産生される酵素の作用で、新しい栄養成分が生み出されます。また乳酸菌や酵母のように、発酵させる微生物自体にも良い影響を与えるものがたくさんあります。更に、発酵によって体内へ食品栄養成分の吸収がよくなります。
・消化が良い

 食べる前から微生物の働きである程度分解されたものであるため、体に入った際に吸収しやすくなっています。
・保存性が良い   

 発酵によって、発酵菌である微生物が増えているため、他の菌の繁殖を抑えるので、腐敗菌の増殖が抑えられ、保存性が高くなります。

 

 腸内環境
 腸内細菌叢は、食事や生活環境などの影響を受けます。人はその人の母親のお腹から出てきた段階から細菌を受け入れて、母乳によって少しずつその人の細菌叢が決まってきます。
腸内細菌叢を構成する菌種は、多様な分子構造により我々人間の腸管免疫系の誘導・教育・機能獲得などに影響を与えます。近年、腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患だけではなく、肥満、糖尿病、脳神経系の異常、アレルギーなど様々な疾患との関連が報告されています。
そのような観点からも、発酵食品を取り入れることで腸内環境を整え、健康な生活を送れるようになりたいですね。

 

主な発酵食品
豆類   : 納豆 醤油 味噌 豆板醤 豆腐ようなど
魚介類  : 鰹節 塩辛 くさや 魚醤 アンチョビ 酒盗など
肉類   : 生ハム サラミなど
乳製品  : チーズ ヨーグルト サワークリームなど
野菜・果物: ぬか漬け キムチ ピクルス ザーサイ メンマ かんずりなど
穀物   : 甘酒 米酢 黒酢 みりんなど

 

 

腸内環境のちょっと難しい話
 人の腸内には人の全細胞を上回る数の常在微生物が存在しています。その微生物叢は「マイクロバイオータ」と呼ばれています。マイクロバイオータは宿主(人や動物)における免疫応答やエネルギー代謝のみならず、神経系の発達や機能にも関係しています。
 マイクロバイオータは植物残渣を発酵分解し、宿主のエネルギー源となる短鎖脂肪酸や補酵素(ビタミンBやビタミンKなど)を提供しています。生体で消費されるエネルギーの約1割は、この微生物発酵で供給されています。その他にも、インドール系化合物や水酸化脂肪酸、ポリアミンなど多くの代謝物を産生し、その一部は宿主と微生物間の伝達分子として作用しています。 さらにマイクロバイオータは、セロトニンやドーパミンのような神経伝達物質や酪酸などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を産生します。(免疫に関係)
 このようにマイクロバイオータは宿主と良好な共生関係を築き、生体機能に有益な作用をもたらします。一方で、共生バランス失調は、免疫関連疾患や代謝性疾患など全身性疾患の素因や増悪因子になります。その共生バランス失調は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患や自閉症、統合失調症といった精神疾患においても観察されています。


昭和堂薬局 | 2021年7月1日

 

自閉症リスク ~備えあれば患(憂)いなし~

 初婚年齢の上昇に伴い、結婚する際の平均年齢も上昇しているため、不妊症や高齢出産が年々増加傾向にある中で子供の発達障害が健康ニュースなどで取り上げられることが多くなり、不安に感じている方も多くいらっしゃると思います。そんな中、基礎医学の世界において「神経免疫学」の分野が盛んに研究され、自閉症についても少しずつ解明が進んできています。

 

 自閉スペクトラム症(ASD)は、先天性の小児発達障害です。その患児数は年々増加して、今や1%を超える率となっています。現在の治療法は、対症療法が中心で根本的な治療法はまだありません。

 

 病因について、遺伝子要因と母体環境要因が考えられています。遺伝子要因に関しては、ゲノム解析により変異や重複、欠損などが複数の遺伝子で見いだされてはいるものの、その全容を説明できるに至っていないのが現状です。しかし、神経回路に関する遺伝子に異常が多くみられることから、神経回路の機能不全の高次機能障害であると考えられています。

 

 母体環境要因としては、妊娠期のウイルス感染やある種の薬物による免疫機能亢進が挙げられます。これまでの臨床的知見から、ASDはアトピーや気管支喘息、過敏性腸症候群などアレルギー疾患を併発していることが多いことがわかっています。このことから病因には脳神経回路の異常と共に免疫系の異常も関わっていると考えられます。

 

 詳細は割愛しますが、簡略に説明すると、妊娠中のウイルス感染などで母体の免疫活性が亢進し、免疫細胞であるTh17細胞が活性化し、IL-17aという炎症性サイトカインの発現が亢進して、このサイトカインが胎盤を通過し、胎児の体内まで運ばれ発達過程の脳に影響を及ぼすことがわかってきました。
ASDの病因・病態が明らかに成ってきたことで、予防や治療法の開発が始まっています。しかし、薬ができるのはまだまだ先のことになるでしょう。

 

 私たちが普段からできることは、腸内細菌叢依存的に起こる免疫の過剰亢進を起こさないように、妊娠前から腸内細菌叢を良性菌優位な健康な状態に保つこと、感染を予防し炎症反応を起こさないようにすることです。専門家もASDの予防・治療効果の観点から、プレ・プロバイオティクスが期待できると述べています。
正に備えあれば患いなしです。


昭和堂薬局 | 2018年12月18日

 

どうすればいいの? -糖尿病・メタボリックシンドロームー

 糖尿病(2型)・メタボリックシンドロームは生活習慣の乱れから、内臓脂肪の蓄積とそれによる慢性炎症が生じ、インスリン抵抗性を発症することが病態の基盤と考えられています。しかし近年、その病態に腸内細菌が関与することが明らかに成ってきました。

 

 また一方では、糖尿病やメタボリックシンドロームの原因と考えらえてきた食事や運動によって腸内細菌叢を変化させることも報告されています。

 

 食事については、以前考えられていたエネルギー過剰摂取による内臓脂肪蓄積ではなく、脂質の過剰摂取による腸管の慢性炎症とバリア機能障害が、インスリン抵抗性と糖尿病発症に重要であることが示されています。

 

 この腸内細菌叢の変化と腸管機能障害の改善が、糖尿病やメタボリックシンドロームの改善につながると考えられています。実際に乳酸菌などのプロバイオティクス、オリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクスが、インスリン抵抗性の改善した報告があります。これは、腸管機能の回復により慢性炎症が回復したことが関与している可能性があります。
 逆に悪化させる食事は、高脂肪食・低食物繊維です。この高脂肪・低食物繊維食は、腸内細菌叢を変化させ、腸管バリア機能低下により炎症性物質であるLSPを吸収し慢性炎症を惹起しています。

 

 また、日常生活の中で我々が摂取しているいくつかの食品添加物によって腸内細菌叢の変化が起こり、腸管バリア機能などが障害され、糖尿病やメタボリックシンドロームが増悪する可能性も報告されています。

 

 以上のことから、糖尿病にならないためには、腸内環境をの改善が不可欠です。食物繊維や醗酵食品をしっかり摂り、腸内環境の改善に努めましょう。


昭和堂薬局 | 2018年9月14日

 

中医学の便秘について

 前々回(8月15日)コラムで、腸内細菌叢と便秘についてお話させていただきました。 その中で紹介させていただいた「慢性便秘症診療ガイドライン」の中に漢方薬が挙げられており、エビデンスレベルが低く、また漢方の処方に偏りがあったので、実際の中医学における便秘に対する考え方をご紹介します。

 

 基本的に中医学は体全体を診る学問であるため、西洋医学と違い便秘は病気の中にある一つの症状であることが多いのですが、便秘を主症と考えてお話していきます。

 

1. 陽気が旺盛な人が、お酒や辛熱厚味の食品を過食して胃腸に熱が積して、陽の潤いを失い大便が秘結して排泄が困難になる場合(熱秘といいます。)

 

2. 過度の憂愁思慮のため情志不舒となり、気が鬱滞して通降が失調して大便が内停して下行することができず大便秘結となる場合

 

3. 虚弱な体質の人は気血両虚になりやすく、気虚では大便の伝送が無力になり、血虚では津液(水)が枯渇して大腸を滋潤できずに便秘となる場合

 

4. 陽虚で虚弱な人や老人で体力の衰えた人は、寒が内に生じて、これが胃腸に留まると、陽気が不通となり、便の伝送が困難になる場合

 

 また、便秘によって引き起こされる症状があります。便秘のため腑気が不通となり、濁気が降りることができず、頭痛・頭暈・腹中脹満、甚だしい場合は疼痛・脘悶曖気(胃がつかえてゲップがでる)・飲食減退・睡眠不安・心煩昜怒(胸がざわざわしてすぐに怒る)などの症状を伴います。長期に及ぶと痔を引き起こします。

 

 便秘は、単に下せば解決するわけではないので、病因に基づいて治療しなければいけません。 一般的に漢方の便秘薬というと下剤の類を想像する方が多いと思いますが、意外に下剤類が入った処方を使わないことが多く、すべての疾患にいえる事ですが、漢方治療においては、西洋医学の病名ではなく、漢方の診断基準を用いて、患者さんの主症状や悪化条件、体質などを分析し、きちんと判別していく事が最も重要です。


昭和堂薬局 | 2018年9月1日

 

今、便秘が注目されています

 便秘に関して、メタゲノム解析により腸内細菌叢の情報が集積され、従来言われていた腸内細菌叢の変化とは善玉菌が減少し、悪玉菌(病原菌)が増加するとされていました。
 しかし慢性便秘に関する腸内細菌叢の研究が盛んになり、その細菌叢の関与の仕方が大きく変わってきています。

 

 便秘は、国民の30%が悩まされているとされ、インターネット調査では全体の28.4%、男性19.1%、女性37.5%が、自分が便秘であると認識しているようです。
 更に、慢性便秘に関するコホート研究では、慢性腎炎、パーキンソン病などの神経難病などが増加し、死亡率が上昇するとの報告もあり、これまで以上に便秘が注目されています。

 

 便秘の人は健康な人に比べ、バクテロイデス門が減り、ファーミキューテス門が増えます。以前言われていた善玉(ビフィズス菌)は変化を認められませんでした。
 また、腸の粘液層の細菌叢の変化や大腸で腸内細菌により産生されるガス、食物繊維から作られる短鎖脂肪酸、胆汁酸(一次)が腸内細菌によって代謝された二次胆汁酸により、腸管運動や水分泌などに影響して慢性便秘になっていきます。

 

 現在の日本人の急速な食生活の変化が、腸内細菌叢に影響し慢性便秘増加に関連していると指摘されています。
 元々、日本人の腸内細菌叢は世界の国とは異なった特徴的なもので、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌類)が多いことが特徴です。昔の日本人は欧米人と比べ便の量が多かったようです。これらは、日本の食文化が作り上げてきた特徴です。

 

 去年の10月に「慢性便秘症診療ガイドライン」が発行されています。これを見た私個人の意見ですが、自分がもし慢性便秘症だったら、ガイドラインの推奨順位の高いものは反ってやりたくないと思いました。腸内細菌叢を含め腸内環境が体に大きな影響があるだろうことは、いろいろな研究で示されています。便を出すことが最終目的ではなく、健康な体が最終目的であるなら、選択順位が違うのではないかと思います。

 

 慢性便秘を食事だけで簡単に改善できるとは思っていませんが、食事の改善があって初めて薬が活かせるのではないかと思います。
 食事の改善やそれを補佐するプロバイオティクスなどから試してみてるのがいいのではないでしょうか。


昭和堂薬局 | 2018年8月15日


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