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日野にある善行寺の季刊誌「やすらぎ通信」より

 日野にある善光寺発行の季刊誌「やすらぎ通信」に掲載されたコラムを私が担当したので、ここでその内容を紹介させていただきます。

 

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり少しずつではありますが、一安心している方もいらっしゃるかもしれません。(引き続き感染予防はしなくてはいけませんが…)
 2019年末に中国から出現した新型コロナウイルス感染症。それから1年半たった今でもまだ収まる兆しすら見えていません。5月31日現在、日本の累計患者数746,933人。日本の人口当たりでは0.596%。死亡者数は13,059人で、人口当たり0.01%、感染者数当たりでは1.75%です。数字にするとそれほど多くない感じがしますが、近年これ程の感染症はありませんでした。

 

 人類の歴史においては、様々な感染症と戦ってきました。14世紀のヨーロッパで流行したペストが有名です。(余談ですが、この時、医師は逃げてしまいましたが、薬剤師が最後まで患者さんの対応をしたことで、ヨーロッパでは医師より薬剤師の地位が上なのだそうです)

 

 その後感染症の病原体や対処法がわかり始めたのが、19世紀後半と言われています。その頃からは感染症の死亡数も減少しています。しかし20世紀後半から、エイズやSARSのような「新興感染症」や結核やマラリヤのような「再興感染症」が問題となっています。そして、新型コロナウイルス感染症です。どうしてまた、感染症が問題になっているのでしょうか?
 ある程度克服したはずなのに…。

 

 前置きが長くなりましたが、このようなことが世界的に起こった背景には、もしかすると現代の食生活や生活習慣に問題があるのかもしれないと私は思っています。(アレルギー疾患が多くなっていることと同じようなメカニズムではと思います)

 

 我々人間は、多くの細菌と共存しています。皮膚や腸管などの粘膜に細菌は存在しています。その代表が腸管で、500~1000種、数は100兆~1,000兆個の腸内細菌が腸内細菌叢(フローラ)を形成し、我々人間と共生関係にあるのです。近年、この腸内細菌の生理的・免疫的役割が少しずつ解ってきています。この腸内細菌叢に影響を与えている物は、食事やその人の生活環境です。衛生的な環境が、アレルギーを多くしているとする説もあります。(あまり雑菌だらけなのも問題ですが…)。そこで、食生活を改善し腸内環境を整えて、病気にならない体づくりをご提案します。発酵食品の薦めです。日本人は昔から多くの発酵食品を摂ってきました。また、日本人は食物繊維も多く取っていたので、腸が長かったそうです。(胴長短足⁈)そして便も多かったらしいですよ。

 

 発酵とは一体何なのでしょう
 発酵とは、微生物の働きによって物質が変化し、人間にとって有益に作用することをいいます。微生物という目に見えない小さな生き物が働いた結果が「発酵」です。発酵を行う微生物のことを総称して「発酵菌」といいます。発酵菌は、発酵により香り成分や新しい味わい、色、栄養価を作り出します。それらの成分がとても美味しく、健康によく、食品の保存性を高めるため、私たち人間は古くから「発酵食品」を作って食べてきました。はるか遠い昔、アラビアの旅商人が山羊の胃袋で作った水筒にミルクを入れて旅立ったところ、数日後に水筒の中から独特の旨味のある白い塊が出てきました。これが発酵食品の起源ではないかと言われています。

 

 紀元前の中国の古書「周礼」や孔子の「論語」、日本最古の医学書「医心方」にも記述がみられる発酵食品は、洋の東西を問わず人々の食生活に影響を与えてきたようです。先人たちは発酵食品が身体にいいことを知っていたのですね。

 

 発酵食品は、その国の気候風土、産物、嗜好性が大きく反映されています。世界各国の民族性や信仰などと関わりを持ちながら、伝統的な食文化を作り上げています。

 

発酵のメリット
・香りや旨味が増す 

 発酵食品を美味しく感じるのは、発酵作用を行う微生物により、元の食材にはない独特の香りや味わいが生まれるからです。
・栄養価が高くなる 

 微生物が、食材を分解・発酵するときに産生される酵素の作用で、新しい栄養成分が生み出されます。また乳酸菌や酵母のように、発酵させる微生物自体にも良い影響を与えるものがたくさんあります。更に、発酵によって体内へ食品栄養成分の吸収がよくなります。
・消化が良い

 食べる前から微生物の働きである程度分解されたものであるため、体に入った際に吸収しやすくなっています。
・保存性が良い   

 発酵によって、発酵菌である微生物が増えているため、他の菌の繁殖を抑えるので、腐敗菌の増殖が抑えられ、保存性が高くなります。

 

 腸内環境
 腸内細菌叢は、食事や生活環境などの影響を受けます。人はその人の母親のお腹から出てきた段階から細菌を受け入れて、母乳によって少しずつその人の細菌叢が決まってきます。
腸内細菌叢を構成する菌種は、多様な分子構造により我々人間の腸管免疫系の誘導・教育・機能獲得などに影響を与えます。近年、腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患だけではなく、肥満、糖尿病、脳神経系の異常、アレルギーなど様々な疾患との関連が報告されています。
そのような観点からも、発酵食品を取り入れることで腸内環境を整え、健康な生活を送れるようになりたいですね。

 

主な発酵食品
豆類   : 納豆 醤油 味噌 豆板醤 豆腐ようなど
魚介類  : 鰹節 塩辛 くさや 魚醤 アンチョビ 酒盗など
肉類   : 生ハム サラミなど
乳製品  : チーズ ヨーグルト サワークリームなど
野菜・果物: ぬか漬け キムチ ピクルス ザーサイ メンマ かんずりなど
穀物   : 甘酒 米酢 黒酢 みりんなど

 

 

腸内環境のちょっと難しい話
 人の腸内には人の全細胞を上回る数の常在微生物が存在しています。その微生物叢は「マイクロバイオータ」と呼ばれています。マイクロバイオータは宿主(人や動物)における免疫応答やエネルギー代謝のみならず、神経系の発達や機能にも関係しています。
 マイクロバイオータは植物残渣を発酵分解し、宿主のエネルギー源となる短鎖脂肪酸や補酵素(ビタミンBやビタミンKなど)を提供しています。生体で消費されるエネルギーの約1割は、この微生物発酵で供給されています。その他にも、インドール系化合物や水酸化脂肪酸、ポリアミンなど多くの代謝物を産生し、その一部は宿主と微生物間の伝達分子として作用しています。 さらにマイクロバイオータは、セロトニンやドーパミンのような神経伝達物質や酪酸などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を産生します。(免疫に関係)
 このようにマイクロバイオータは宿主と良好な共生関係を築き、生体機能に有益な作用をもたらします。一方で、共生バランス失調は、免疫関連疾患や代謝性疾患など全身性疾患の素因や増悪因子になります。その共生バランス失調は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患や自閉症、統合失調症といった精神疾患においても観察されています。


昭和堂薬局 | 2021年7月1日

 

自閉症リスク ~備えあれば患(憂)いなし~

 初婚年齢の上昇に伴い、結婚する際の平均年齢も上昇しているため、不妊症や高齢出産が年々増加傾向にある中で子供の発達障害が健康ニュースなどで取り上げられることが多くなり、不安に感じている方も多くいらっしゃると思います。そんな中、基礎医学の世界において「神経免疫学」の分野が盛んに研究され、自閉症についても少しずつ解明が進んできています。

 

 自閉スペクトラム症(ASD)は、先天性の小児発達障害です。その患児数は年々増加して、今や1%を超える率となっています。現在の治療法は、対症療法が中心で根本的な治療法はまだありません。

 

 病因について、遺伝子要因と母体環境要因が考えられています。遺伝子要因に関しては、ゲノム解析により変異や重複、欠損などが複数の遺伝子で見いだされてはいるものの、その全容を説明できるに至っていないのが現状です。しかし、神経回路に関する遺伝子に異常が多くみられることから、神経回路の機能不全の高次機能障害であると考えられています。

 

 母体環境要因としては、妊娠期のウイルス感染やある種の薬物による免疫機能亢進が挙げられます。これまでの臨床的知見から、ASDはアトピーや気管支喘息、過敏性腸症候群などアレルギー疾患を併発していることが多いことがわかっています。このことから病因には脳神経回路の異常と共に免疫系の異常も関わっていると考えられます。

 

 詳細は割愛しますが、簡略に説明すると、妊娠中のウイルス感染などで母体の免疫活性が亢進し、免疫細胞であるTh17細胞が活性化し、IL-17aという炎症性サイトカインの発現が亢進して、このサイトカインが胎盤を通過し、胎児の体内まで運ばれ発達過程の脳に影響を及ぼすことがわかってきました。
ASDの病因・病態が明らかに成ってきたことで、予防や治療法の開発が始まっています。しかし、薬ができるのはまだまだ先のことになるでしょう。

 

 私たちが普段からできることは、腸内細菌叢依存的に起こる免疫の過剰亢進を起こさないように、妊娠前から腸内細菌叢を良性菌優位な健康な状態に保つこと、感染を予防し炎症反応を起こさないようにすることです。専門家もASDの予防・治療効果の観点から、プレ・プロバイオティクスが期待できると述べています。
正に備えあれば患いなしです。


昭和堂薬局 | 2018年12月18日

 

どうすればいいの? -糖尿病・メタボリックシンドロームー

 糖尿病(2型)・メタボリックシンドロームは生活習慣の乱れから、内臓脂肪の蓄積とそれによる慢性炎症が生じ、インスリン抵抗性を発症することが病態の基盤と考えられています。しかし近年、その病態に腸内細菌が関与することが明らかに成ってきました。

 

 また一方では、糖尿病やメタボリックシンドロームの原因と考えらえてきた食事や運動によって腸内細菌叢を変化させることも報告されています。

 

 食事については、以前考えられていたエネルギー過剰摂取による内臓脂肪蓄積ではなく、脂質の過剰摂取による腸管の慢性炎症とバリア機能障害が、インスリン抵抗性と糖尿病発症に重要であることが示されています。

 

 この腸内細菌叢の変化と腸管機能障害の改善が、糖尿病やメタボリックシンドロームの改善につながると考えられています。実際に乳酸菌などのプロバイオティクス、オリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクスが、インスリン抵抗性の改善した報告があります。これは、腸管機能の回復により慢性炎症が回復したことが関与している可能性があります。
 逆に悪化させる食事は、高脂肪食・低食物繊維です。この高脂肪・低食物繊維食は、腸内細菌叢を変化させ、腸管バリア機能低下により炎症性物質であるLSPを吸収し慢性炎症を惹起しています。

 

 また、日常生活の中で我々が摂取しているいくつかの食品添加物によって腸内細菌叢の変化が起こり、腸管バリア機能などが障害され、糖尿病やメタボリックシンドロームが増悪する可能性も報告されています。

 

 以上のことから、糖尿病にならないためには、腸内環境をの改善が不可欠です。食物繊維や醗酵食品をしっかり摂り、腸内環境の改善に努めましょう。


昭和堂薬局 | 2018年9月14日

 

中医学の便秘について

 前々回(8月15日)コラムで、腸内細菌叢と便秘についてお話させていただきました。 その中で紹介させていただいた「慢性便秘症診療ガイドライン」の中に漢方薬が挙げられており、エビデンスレベルが低く、また漢方の処方に偏りがあったので、実際の中医学における便秘に対する考え方をご紹介します。

 

 基本的に中医学は体全体を診る学問であるため、西洋医学と違い便秘は病気の中にある一つの症状であることが多いのですが、便秘を主症と考えてお話していきます。

 

1. 陽気が旺盛な人が、お酒や辛熱厚味の食品を過食して胃腸に熱が積して、陽の潤いを失い大便が秘結して排泄が困難になる場合(熱秘といいます。)

 

2. 過度の憂愁思慮のため情志不舒となり、気が鬱滞して通降が失調して大便が内停して下行することができず大便秘結となる場合

 

3. 虚弱な体質の人は気血両虚になりやすく、気虚では大便の伝送が無力になり、血虚では津液(水)が枯渇して大腸を滋潤できずに便秘となる場合

 

4. 陽虚で虚弱な人や老人で体力の衰えた人は、寒が内に生じて、これが胃腸に留まると、陽気が不通となり、便の伝送が困難になる場合

 

 また、便秘によって引き起こされる症状があります。便秘のため腑気が不通となり、濁気が降りることができず、頭痛・頭暈・腹中脹満、甚だしい場合は疼痛・脘悶曖気(胃がつかえてゲップがでる)・飲食減退・睡眠不安・心煩昜怒(胸がざわざわしてすぐに怒る)などの症状を伴います。長期に及ぶと痔を引き起こします。

 

 便秘は、単に下せば解決するわけではないので、病因に基づいて治療しなければいけません。 一般的に漢方の便秘薬というと下剤の類を想像する方が多いと思いますが、意外に下剤類が入った処方を使わないことが多く、すべての疾患にいえる事ですが、漢方治療においては、西洋医学の病名ではなく、漢方の診断基準を用いて、患者さんの主症状や悪化条件、体質などを分析し、きちんと判別していく事が最も重要です。


昭和堂薬局 | 2018年9月1日

 

今、便秘が注目されています

 便秘に関して、メタゲノム解析により腸内細菌叢の情報が集積され、従来言われていた腸内細菌叢の変化とは善玉菌が減少し、悪玉菌(病原菌)が増加するとされていました。
 しかし慢性便秘に関する腸内細菌叢の研究が盛んになり、その細菌叢の関与の仕方が大きく変わってきています。

 

 便秘は、国民の30%が悩まされているとされ、インターネット調査では全体の28.4%、男性19.1%、女性37.5%が、自分が便秘であると認識しているようです。
 更に、慢性便秘に関するコホート研究では、慢性腎炎、パーキンソン病などの神経難病などが増加し、死亡率が上昇するとの報告もあり、これまで以上に便秘が注目されています。

 

 便秘の人は健康な人に比べ、バクテロイデス門が減り、ファーミキューテス門が増えます。以前言われていた善玉(ビフィズス菌)は変化を認められませんでした。
 また、腸の粘液層の細菌叢の変化や大腸で腸内細菌により産生されるガス、食物繊維から作られる短鎖脂肪酸、胆汁酸(一次)が腸内細菌によって代謝された二次胆汁酸により、腸管運動や水分泌などに影響して慢性便秘になっていきます。

 

 現在の日本人の急速な食生活の変化が、腸内細菌叢に影響し慢性便秘増加に関連していると指摘されています。
 元々、日本人の腸内細菌叢は世界の国とは異なった特徴的なもので、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌類)が多いことが特徴です。昔の日本人は欧米人と比べ便の量が多かったようです。これらは、日本の食文化が作り上げてきた特徴です。

 

 去年の10月に「慢性便秘症診療ガイドライン」が発行されています。これを見た私個人の意見ですが、自分がもし慢性便秘症だったら、ガイドラインの推奨順位の高いものは反ってやりたくないと思いました。腸内細菌叢を含め腸内環境が体に大きな影響があるだろうことは、いろいろな研究で示されています。便を出すことが最終目的ではなく、健康な体が最終目的であるなら、選択順位が違うのではないかと思います。

 

 慢性便秘を食事だけで簡単に改善できるとは思っていませんが、食事の改善があって初めて薬が活かせるのではないかと思います。
 食事の改善やそれを補佐するプロバイオティクスなどから試してみてるのがいいのではないでしょうか。


昭和堂薬局 | 2018年8月15日

 

生体バリア6 ~肥満は病気の入り口~

 肥満は“カッコ悪いだけ”と思っていませんか?

 

 肥満は病気の入り口です。肥満は糖尿病や心筋梗塞だけでなく、がんを促進することが指摘されています。高脂肪食などの摂取により肥満になると、腸内環境も変化します。このことは以前からお話ししているのでご存知かもしれません。腸内細菌はグラム陽性菌のファーミクーティス門の菌の割合が増えて、グラム陰性菌のバクテロイディス門の菌の割合が減ってきます。すると二次胆汁酸を産生するグラム陽性菌が増加し、体内の二次胆汁酸であるデオキシコール酸の量が増えます。これにより腸肝循環で肝臓の間質に存在する肝星細胞が「細胞老化」を起こすことが明らかになりました。細胞老化を起こした肝星細胞は発がん促進作用のある炎症性サイトカインなどを分泌することで、肝実質細胞のがん化を促進する環境をつくることが示されました。

 

 また、以前の報告では、グラム陰性菌の細胞膜成分であるリポ多糖(LPS)が肝がん促進因子として働くとされていたが、最近の研究でグラム陽性菌の細胞壁由来成分のリポタイコ酸(LTA)が肝がん促進因子ではないかといわれています。また、このリポ多糖によって、炎症を起こしてしまう物質をつくる酵素の発現が上昇します。これらのことが、がん微小環境で抗腫瘍免疫の抑制やがんの進展につながる可能性が示されています。
(私もこのことは以前から疑問に思っており、減ってしまった菌の成分が影響することに不自然な感じがしていました。)

 

 病気になるということは、遺伝的要素や環境要因も影響するとは思います。しかし、毎日食べているものが影響していくこともあるのです。生体バリアについてこれまで、6回シリーズで話してきました。生体バリアを脆弱にしてしまう食事は高脂肪・低食物繊維食です。食事についてはその他いろいろあるとは思いますが、言い出すと限がないので今回は低脂肪・高食物繊維食をご提案させていただきます。


昭和堂薬局 | 2017年9月2日

 

生体バリア5 ~腸内細菌由来代謝産物による生体バリア調節~

 人の腸内細菌叢は、最新の試算によると40兆個程度の腸内細菌が存在すると考えられています。これは成人の全細胞数をやや上回る数字です。腸内細菌叢は、我々宿主の消化酵素では消化できない食物繊維などを発酵分解し、二次代謝産物として多様な低分子化合物を産生します。このように腸内細菌叢は見かけ上1つの代謝器官として機能し、我々の体のエネルギー代謝に必要な栄養素や補助因子を供給しています。

 

 主な腸内代謝物である短鎖脂肪酸は、カルボキシル基をもち、炭素数6以下の飽和脂肪酸の総称で、直鎖のものと分枝鎖の化合物が存在します。直鎖の短鎖脂肪酸は、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸の5つです。アミノ酸からは分枝短鎖脂肪酸であるイソ酪酸、イソ吉草酸および2-メチル酪酸などが産生されます。

 

 詳細は割愛しますが、これらの腸内細菌由来の代謝産物によって、上皮バリア機能は高度に調整(強化)されています。そのため、食物繊維などに富むバランスの取れた食事を摂取し、腸内細菌叢を健全に保つことが、上皮バリア機能の維持に重要と考えられています。偏食や抗菌剤などにより腸内細菌のバランス異常が生じると、上皮バリア機能低下により腸管壁浸潤症候群(リーキーガット症候群)の発症につながり、本来管腔内に留まるべき菌体成分や代謝物が体内に流入し、慢性炎症や感染症のみならず、自閉症スペクトラム障害やメタボリックシンドロームなどの疾患発症リスクが高まります。

 

 これまで、生体バリアについてお話してきましたが、このバリアが壊れてしまって病気になってしまうと、元の健康な体に戻すことは容易ではありません。食事はもとより、生活習慣やストレスの軽減に努め、健康な体を維持していきましょう。

 

 次回は、高脂肪食によって腸内細菌叢のバランスが崩れ、肝がんに発展していくメカニズムの最新情報をご紹介いたします。


昭和堂薬局 | 2017年8月16日

 

生体バリア4 ~生体は共生菌を調節して身体を守っています~

 これまで、3回にわたり生体バリアについてお話してきました。私たちの体を守っていく上でバリア機能が重要であることはお分かりいただけたと思います。

 

 また、健康な状態では腸内細菌叢と我々の体は共生関係を築いています。これまでこのコラムでも腸内細菌叢についてお話してきましたが、今回は我々生体が外からの異物を体に入れないようにしながら、腸内細菌をコントロールしている仕組みについて触れたいと思います。

 

 前々回に上皮細胞について簡単に触れましたが、その中でパネート細胞が抗菌ペプチドを産生していると述べました。パネート細胞は感染刺激などによって抗菌ペプチドを分泌し、病原体を死滅させます。一方で共生関係にある腸内細菌には対しては殺菌活性をほとんど示さないのです。しかし、このメカニズムが異常をきたすと腸内細菌叢の構成異常を起こし、様々な疾患の発症原因になってしまうのです。

 

 また、腸管にはIgA抗体が存在します。腸管免疫は病原体を排除するだけでなく、免疫全体の恒常性の維持に重要な役割を担っています。その腸管免疫の中で主要な要素の一つがIgA抗体なのです。腸管粘膜固有層から腸管に分泌され、食べ物などと一緒に入ってきた病原菌やその毒素と結合し中和します。もう一つの機能は、腸内常在菌を認識しそれと結合し常在腸内細菌が粘膜固有層に過剰に侵入しないようにしています。ある報告によると腸内細菌の中で腸炎を誘発する細菌とIgA抗体は結合していることが言われています。ほかの報告では、マウス腸管から単離した高親和性IgA抗体をマウスに経口投与することによって腸内細菌叢を改善し、腸炎などの病態を抑制することが示されました。

 

 人の体はいろいろなメカニズムで恒常性を維持し病気にならないようにしています。しかし、食生活や生活習慣の乱れで恒常性維持機能が壊れると病気になっていきます。人それぞれではあると思いますが、ちょっとした工夫で生体バリアを維持し病気を予防できると良いですね。


昭和堂薬局 | 2017年8月2日

 

生体バリア3 ~粘液層の役割~

 前回、前々回生体バリアについてお話ししました。今回は粘液層についてお話ししたいと思います。


 消化管は内なる外といわれ、食事などと一緒に侵入してくる病原菌や共生する細菌から組織を守るため、消化管粘膜は多量の粘液で覆われていることが明らかになりました。特に多くの腸内細菌が存在する大腸では外粘液層と内粘液層の二層に分かれていて、分厚い粘液が粘膜を覆っています。粘液層を構成するムチン分子が密に結合している内粘液層では腸内細菌がほとんど存在せず、この内粘液層が腸内細菌と腸粘膜を分離していることが明らかになりました。

 

 この粘液層を構成するムチン分子は、腸上皮細胞の一つである胚細胞から産生され、その胚細胞は腸内細菌が多く存在する大腸に多く、産生される粘液量も多いため、大腸では分厚い粘液層が腸管上皮を覆っています。この粘液層の生成・分泌のメカニズムも明らかになりつつあり、食事や腸内細菌叢の変化も粘液層の恒常性とバリア機能に影響を与えていることが明らかになっています。動物実験ではありますが、低繊維食を食べさせたマウスでは、粘液層のムチンを分解する腸内細菌が増加し、それにより大腸粘液層の厚みが薄くなり、病原性細菌に感染しやすくなるという報告があります。このように粘液層の恒常性は食事や腸内細菌など様々な因子により制御されています。また、この粘液層の恒常性がうまくいかなくなることにより、炎症性腸炎などの腸管の炎症に繋がっていくのです。

 

 以上のことからも、食事の重要性は明らかです。今回の食事については低繊維食ですが、腸内環境の悪化要因という意味では、高脂肪・低繊維食ではないかと思います。特にジャンクフードを食べる機会が多い若い年齢層は要注意ですね。


昭和堂薬局 | 2017年7月19日

 

生体バリア2 ~各上皮細胞の働き~

 前回のコラムでは腸上皮細胞は6種類の細胞からできているとお話ししました。その上皮細胞は、生体バリアシステム構築のため、細胞間接着が強固になっていて上皮細胞シートが構築されています。その上皮細胞シートが強く結びついていることによって、容易に外からの異物を内に入れないようになっているのです。

 

 では、6種類の細胞の解っている働きを簡単にご説明します。
(吸収上皮細胞・胚細胞・パネート細胞・タフト細胞・M細胞・腸内分泌細胞)

 

 吸収上皮細胞は、その名の通り栄養素の吸収が主な役割です。一方で吸収上皮細胞は腸管上皮細胞の中で一番多い細胞で、防御機能も備わっていて、後でお話しするパネート細胞ほどではないのですが抗菌ペプチドを産生し、免疫細胞を活性化するサイトカインを産生しています。

 

 胚細胞はムチンを産生することで粘液層を形成し、腸管上皮細胞に微生物が接着しないようにしています。(次回、もう一度、ご説明します。)


 パネート細胞は、抗菌ペプチドを大量生産することで細菌感染に対する生体防御に貢献しています。また、パネート細胞は、腸陰窩部に存在する腸管上皮幹細胞ニッシュ(微小環境)の維持にも必要な細胞です。


 タフト細胞は、存在自体は以前より認識されていたのですがその役割はまだわかっていません。しかし、昨年(2016年)に2型自然リンパ球という免疫細胞を活性化するサイトカイン(IL-25)を供給していることが明らかとなりました。

 

  M細胞はパイエル板をはじめとする腸管関連リンパ組織を覆う上皮細胞層に分布し、微生物などの抗原を捕捉し免疫細胞にすみやかに受け渡すことで、抗原特異的な免疫応答を惹起しています。


 腸内分泌細胞は、生体バリアに直接関係していませんが、消化管ホルモンなどを分泌して健康維持に貢献しています。

 

 簡単に説明しましたが、これらのシステムが非常に重要で、細胞間接着が弱まってしまったり、腸管上皮幹細胞から6種の上皮細胞が適正に分化せず、極端にどれかの細胞が少なくなってしまうと我々の体の存在すら危ぶまれてしまいます。
腸上皮細胞は3~4日のサイクルで入れ替わると言われています。食事による食物繊維や細菌が刺激になり、これら上皮細胞は正常に分化し、正常に機能するのです。


昭和堂薬局 | 2017年7月3日


横浜ポルタ内にある漢方薬局。あなたの健康な体を取り戻すお手伝いを致します。