『昭和堂薬局』

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やすらぎ通信 正月号

通信36号01-2-2

9月にスタートしたやすらぎの郷霊園の「やすらぎ通信」のコラム第2弾です!

 

 仏教では、身心一如(しんじんいちにょ)といわれ、身体と心・精神は分けて考えることはできません。身体と心のバランスを保つという意味で、仏教と東洋医学は、似通っている点があるのではないかと思います。身体と心の健康に ついて学んでいきたいと思います。
 前回は、健康とは陰陽のバランスである事。そして、四季折々の旬の食材には季節に合った食性があるという事を紹介しました。今回は、東洋医学が考える冬の性質とその冬を元気に過ごしていくための先人の知恵についてご紹介します。

 

第2回 冬の養生訓 ~春は生じ、夏は長じ、秋は収し、冬は蔵する~
 東洋医学では四季それぞれの特徴にあった養生法を考えます。中国伝統医学の古典の一つである「黄帝内経」・『素問・四気調神大論』には次の様に書かれています。
 「四時陰陽の変化は万物の生長収蔵の根本である。そこで聖人は春と夏には陽気を養い、秋と冬には陰気を養って、この根本に順うのである。こうして聖人は、万物と同様に、生長発育の正常なリズムを充分保てるのである。仮りにこれに反してしまうと、生命の根本が傷つき伐られて、真気もまた損なわれ、壊えてしまう。そこで陰陽四時の変化というものは、万物の生長、衰老死亡の根本だというのである。これに反すると災害をまねき、これに順えば疾病も生じない。これがつまり養生法をわきまえるということである。養生法については、聖人は着実にこれを行うが、愚か者はかえってこれに背いてしまう。」
 「冬の三箇月は万物の生活機能が潜伏閉蔵する季節である。だから河の水は氷り、地面は凍って裂ける。この時期には、人は陽気をかき乱してはならない。少し早く眠り、少し遅く起きるべきであり、起床と就寝の時間は、日の出と日の入りを基準とするがよい。心を埋め伏し、しまい隠しているかのように安静にさせる。ちょうど人に話しにくい私情があるかのように。また、すでに秘密をつかんだような愉快な気分で、厳寒を避け、温暖に保ち、皮膚を開いて汗を出すようなことをして、閉蔵している陽気に影響を受けさせてはならない。これがつまり、冬に適応して「蔵気」を養うという道理である。もし、この道理に反すると、腎気を損傷し、来春になって痿厥(いけつ)の病を発生し、人が春の生気に適応するという能力を減少させてしまう。」

 

 季節に背くようなことをすると、それぞれの季節に応じた病気に繋がると考えられています。
 冬は厳しい寒さで陽気が抑えられ、陰気が盛んになる季節です。万物が静かに落ち着いている「陰」の季節は、早寝、遅起きをし、活発な活動でエネルギーを消耗することは避け、「蓄える」ことを第一にゆっくり過ごす季節です。また、冬の寒さは自然界の邪気「寒邪」となって身体に侵入し、さまざまな不調を引き起こす原因にもなるので注意が必要です。寒邪の侵入によって身体が冷やされると、カゼ、関節の冷えや痛み、四肢の冷えなどの症状が現れます。

 

○腎(じん) ~人体の五臓の中で、冬と関係が深いのは「腎」~
 「腎」は人体の生命活動を維持する栄養物質である「精」を貯蔵し、全身に精力を与えて根気を生み出します。また、免疫力や防衛力の要であり、心身の成長発育を促す働きがあります。同時に、生殖活動を生み出します。つまり腎は人体の生命活動を維持するエネルギーを蓄え、全身にこれを供給し、健全な働きを維持する役目を担っているのです。そのため、腎が弱ると、生命エネルギーが衰えて気力、体力も低下し、活動量も落ちてしまいます。
 もうひとつ重要な働きが、腎は体内の水分を蓄え全身に分布させ、尿を生成し排泄して水分代謝を管理しています。さらに腎は、骨と髄の成長発育と密接に関係しその異常は、その窓口である耳に表れます。古典では、「腎気は耳に通じ、腎和すればよく五音を聞く」(霊枢脈度篇)とされ、腎と耳が密接な関係にあることを説明しています。

 

○冬は「鹹味(かんみ)」が必要!
 冬は腎臓が一番働く季節と述べましたが、漢方で言う「腎」を助ける味、冬に必要な味は、「鹹(かん)」という味で、これは塩辛い味です。腎臓を助ける味は「ミネラル」であると漢方の世界では言われています。現在の食塩・純度の高い塩化ナトリウム(NaCl)の味を指すのではなくて自然のミネラルを含む塩と考えたほうがよいようです。
 寒さの厳しい北海道・東北と一年を通して暖かい南九州・沖縄の食生活を比べると、大きく異なるものの1つが塩分の摂取量です。北国では味噌やしょうゆの塩分濃度が高く、漬け物や佃煮、魚の塩漬けなど保存のためにも塩をふんだんに用いた郷土料理がたくさんあります。それは、塩気の多い食べ物には、体を温める作用があるからです。血液内の塩分濃度が高まるとエネルギーの燃焼作用が盛んになり体温が上昇するのです。塩分の多量摂取は寒さに耐え、体が冷えるのを防ぐための人間の知恵なのです。冬に弱りやすい腎を補うのも、塩をはじめ味噌やしょうゆなどの塩辛い味である鹹味の食材です。鹹味は大小便の排泄に不可欠な味であり、「腎・膀胱」の機能を補い泌尿器の働きを助けて、体内の水分代謝を調整する働きがあります。腎気を養い、骨髄を丈夫に保ち衰えたエネルギーを回復するためにも無くてはならないものです。ほかの食物では取れないナトリウム、マグネシウム、亜鉛等のミネラル類の補給源でもあるのです。

 

 ところが、現在では塩分が必要以上に敵視されています。「高血圧に塩は駄目じゃないか!」といわれます。しかしながら、天然塩を代表に、バランスの取れたミネラル塩や醗酵物の塩を適量取るには問題はありません。むしろ化学薬品のような塩化ナトリウムを食塩として取ることが問題なのです。天然塩の中には、苦汁(マグネシウム)が入っており、これは心臓を守り助ける苦味となります。化学薬品の塩化ナトリウムの鹹味だけに較べ、天然塩は鹹味に苦味が入ることにより血圧を上げにくくするのです。
 また鹹味には、硬いものをやわらげる作用があり、体にできたしこりを解消する効果もあります。昔の人は肩が凝ると入浴時に塩を肩にすり込んだそうです。北国の人々は、「寒邪」によって血管も毛穴も収縮し、水分代謝をコントロールするために、「腎」に過剰な負担がかかります。それを防ぐために、体を温めて腎を保護する鹹味の食べ物を必然的に多く取り入れてきたのです。

 

先人の知恵 ~おせち料理~
 漢方の世界では、黒い色は、冬一番働く臓器、腎臓(じんぞう)を守る色とされます。おせち料理にはこうした腎(じん)を補う食材(黒豆・昆布・田作りなど)が沢山取り入れられています。

 

ゴボウの昆布巻き
 鹹味(かんみ)(塩味)の昆布でゴボウを巻いて、しょうゆと砂糖で味付けしたものです。「よろこぶ」事の多い年にと願いを込めています。昆布をはじめわかめやひじきなどの海草類には、尿の出を促して、水分代謝を高め、腎機能を補う働きがあります。鹹味の昆布に相剋(そうこく)にあたる苦味(にがみ)のゴボウを組み合わせて(塩辛いものが多いと心臓、血圧、血管に負担をかけます)心臓の働きを補うバランスの良い組み合わせです。海藻(かいそう)のぬめりをもたらす「フコイダン」という多糖類は、水に溶けやすい性質を持った食物繊維で、便通を整えると同時に、血液中のコレステロールを低下させて血圧を下げ動脈硬化を防ぐ作用もあり、この点でも相剋の「心臓」を助けています。ミネラルと結合しやすいために、過剰に取りすぎたナトリウムの体外に排出するのにも役立ちます。

 

田作り
 鹹味のごまめ(片口イワシの稚魚(ちぎょ))をしょうゆ風味の飴(あめ)炊きにした「田作り」も腎(じん)を補う一品です。かつては田畑の高級肥料として片口(かたくち)イワシが使われていたことから、豊作を願ってお正月に食べられるようになったと言われています。「田作り」には、筋骨を強くして、内臓の働きを良くして体を温め、水分代謝を促す効果があることを、人々は経験的に察知していたのかもしれません。

 

栗きんとん
 意外なところでは、「栗きんとん」の栗も、腎を補う鹹味に属します。クチナシの実で黄金色に色づけされた「栗きんとん」は、その豪華さからお正月の定番料理となりましたが、相尅関係で甘味の砂糖によって腎の働きが抑えられるのを、鹹味の栗によって未然に防いでいる、すぐれた組み合わせといえます。黄金の布団に見立てて金運の上昇を祈ります。

 

 おせち料理に代表される日本の伝統食はこのように理にかなった組み合わせになっています。
健やかに心穏やかな日々が送れますように祈りつつ、おせち料理をつまんでみては如何ですか。

 


昭和堂薬局 | 2014年12月26日


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