『昭和堂薬局』

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やすらぎ通信 春彼岸

やすらぎ通信春彼岸号

 

昨年9月にスタートしたやすらぎの郷霊園の「やすらぎ通信」のコラム第3弾です!

 

 仏教と東洋医学

仏教では、身心一如(しんじんいちにょ)といわれ、身体と心・精神は分けて考えることはできません。身体と心のバランスを保つという意味で、仏教と東洋医学は似通っている点があるのではないかと思います。身体と心の健康について学んでいきたいと思います。

前回は、東洋医学における冬の養生訓を紹介しました。今回は春の養生訓です。

 

 第3回 春の養生訓

 

~春は生じ、夏は長じ、秋は収し、冬は蔵する。~
 東洋医学では四季をこのように捉え、それぞれの特徴にあった養生法を考えます。中国伝統医学の古典の一つである「黄帝内経(こうていだいけい)」の中の『素問・四気調神大論(しきちょうしんだいろん)』では、「四時陰陽の変化は万物の生長(せいちょう)収蔵(しゅうぞう)の根本である。そこで聖人は春と夏には陽気を養い、秋と冬には陰気を養って、この根本に順うのである。こうして聖人は、万物と同様に、生長発育の正常なリズムを充分保てるのである。仮りにこれに反してしまうと、生命の根本が傷つき伐られて、真気もまた損なわれ、壊えてしまう。そこで陰陽四時の変化というものは、万物の生長、衰老死亡の根本だというのである。これに反すると災害をまねき、これに順えば疾病も生じない。これがつまり養生法をわきまえるということである。養生法については、聖人は着実にこれを行うが、愚か者はかえってこれに背いてしまう。」と書かれています。
 この季節に背くようなことをすると、それぞれの季節に応じた病気に繋がると考えました。
 また、『素問・四気調神大論』には、「春の三箇月は、万物が古いものを推し開いて、新しいものを出す季節であり、天地間の生気が発動して、ものみなすべてが生き生きと栄えてくる。人々は少し遅く寝て少し早く起き、庭に出てゆったりと歩き、髪を解きほぐし、体をのびやかにし、心持ちは活き活きと生気を充満させて、生まれたばかりの万物と同様にするがよい。ただひたすらその生長にまかせるべきで、殺害してはならない。ただひたすら成長を援助するべきで、剥奪してはならない。大いに心をはげまし目を楽しませるべきで、体をしいたげてはならない。これが春に適応し、「生気」を保養する道理である。もし、この道理に反すると、肝気を損傷し、夏になって変じて寒性の病を生じ、人体がもっている夏の盛長の気に適応するという能力を減少させてしまう。」と書かれています。

 

 このように、春は、ピンと張りつめた空気がゆるみ、しだいに日がのびてくると、自然界には春の暖かな陽気が満ちてきます。草花は芽吹き、地中からはさまざまな虫たちが顔を出し、生きものたちの命がいきいきと育まれる、生命力あふれる季節なのです。それは人間にとっても同じこと。春になると、おのずと何か新しいことを始めたくなるものです。体の中には、やる気や元気をもたらす”陽の気”が高まり、エネルギーが満ちあふれてきます。春は人間も活動的になり、それを発散するのが春の養生法です。しかし、自然の気に逆らって室内に閉じこもり、発散しないでいると、陽の気がどんどん上昇して体内に滞り、そのために上半身に異常が現れやすくなると考えます。春のめまいやのぼせ、気持ちの高ぶりによる不眠などは、春の陽気の上昇にともなう代表的な症状といえます。

 

〇肝の働きが乱れる春

 東洋医薬学では、めまいやのぼせなど、春の陽の気の高ぶりによる症状は、肝機能の異常亢進によってもたらされると考えます。東洋医薬学でとらえる「肝」のもっとも重要な働きは、血液を貯蔵し、調節することです。「肝」の働きが異常に高まると、「肝」に貯蔵されるべき血液がおさまらず、陽の気とともに上昇して、上半身に滞るようになると考えます。その結果、頭に血がのぼって、のぼせやめまい、不眠、頭痛、肩こりなどを起こしやすくなるのです。高血圧も「肝」の異常亢進による症状のひとつです。

同時に、「肝」は「思考を司る」器官といわれ、精神的な作用が強い臓器ととらえられています。ものごとを論理的に考え、判断し、実行することと「肝」は不可欠な関係にあり、ストレスなどをコントロールして、イライラや不安などの感情を是正する役目を担っているのです。さらに人体の筋肉や腱、関節を動かす働きも「肝」が支配しています。そのため春、「肝」の働きが異常になると、関節の痛みや筋肉がつるなどの症状が現れることがあります。

 

〇肝を補う酸味の食材

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 春に異常亢進しやすい「肝」の働きを正常に戻し、疲弊した「肝」の働きを補うのが、酸味の食材です。酸味とは、文字どおり酸っぱい味で、「肝・胆」をはじめ、眼や腱の働きを補い、滋養する作用があるとされます。梅干し、酢、かぼす、レモン、すもも、さくらんぼなどが酸味を代表する食材です。「酒は肝をいためる」といわれ、飲みすぎは「肝」の大敵ですが、肝機能を高め、二日酔いを解消するうえでも酸味の食材が威力を発揮します。酒の肴には、酢の物などの酸味がよく合い、梅酒やレモンサワー、ジンライムなど、お酒を酸味のフルーツで割ったものが多いのも理にかなっています。また酸味の食材には、食品の腐敗を防いで鮮度を保ち、脂肪を中和して味わいを淡白にし、食をすすめる作用があります。脂ののった青背のさばを、酢でしめた「しめさば」は、酸味の特徴を上手に生かした調理法のひとつといえましょう。酸味は腐りやすいさばの保存を可能にし、脂っこさを消して、さっぱりとした味に変えてくれます。

 

 古くから日本人は、ものごとの大事なことを「肝腎」といい、味加減や健康度を表すのに「塩梅(あんばい)」と呼んで、「肝」を補う酸味を重視してきました。ところが、今日の日本の食生活を見ると、梅干しや食酢、緑色野菜の摂取が激減しています。加えて、有機酸の補給源であった柑橘類などの果物も、甘味の強いものが求められるようになり、酸味の少ない、甘味優先の果物に品種改良されるようになりました。梅干し、ゆず(実)、かぼす、レモンなど、酸味の食材は決して主役になりえるものではありませんが、だからこそ意識して、季節の酸味の食材を取り入れる必要があると思います。とくに酸味の代表ともいえる梅干しは、梅を塩漬けにすることで、鹹味(かんみ)の塩が「腎」を補い、辛味のしそが「肺・大腸」を助けるなど、これだけで三味が補えるすぐれた食品です。肝臓の働きを活発にすると同時に、利尿作用を高めて腎の働きを補い、腸の働きを整えて便秘を防ぐ効果もあります。古来より「梅干しは三毒を絶つ」といわれ、水分代謝障害、血行不良、消化不良を予防する効力があるとされるのも、酸・鹹・辛の三味の働きによるものです。おにぎりやお弁当に梅干しを入れるのも、すぐれた殺菌力を利用して、ごはんが腐敗するのを防ぐために考え出された生活の知恵です。かつては「1日1個梅干しを食べれば病気にならない」といわれ、どこの家庭でも梅干しが常備されていました。塩分の摂りすぎによる弊害が強調され、洋食がふだんの食卓にのぼるようになると、しだいに影をひそめていきましたが、いま再び、効能豊かな梅干しを食べる習慣を取り戻したいものです。

 

  旬の食材

 日本には、四季があり四季の変化に応じて食物は成長し実りのときを迎えます。その四季折々の食べ物が旬の食材です。食べ物は季節と切り離せないものであり、私たちは春夏秋冬それぞれの季節に合わせて生み出される自然の恵みを巧みに取り入れてきました。しかし、今の日本では、ハウス栽培や冷凍・冷蔵技術の発達により、一年中同じ食材が手に入るようになりました。冬に、本来は夏にしかとれないトマトやきゅうりが食卓にのぼることも珍しくありません。かつての日本では、四季の変化に合わせて育まれる旬の食材によって、誰もが季節の移り変わりを実感していたのです。栄養をたっぷりと含んだ旬の恵みを取り入れることによりその季節を乗り切る力を得ていたのです。

 

 春の伝統料理
 「たけのこの木の芽あえ」に「若竹煮」や「うどとわかめの酢みそあえ」いずれも春の訪れを感じさせてくれる伝統料理です。これら古くから受け継がれる日本の料理には、春に起こりやすい症状を防ぐための知恵が見事に生かされています。
たけのこやうどなどの苦味の食材には、陽の気や血液の高ぶりを抑えて熱を鎮める作用あります。ただし、苦味の食材は、摂りすぎると体を冷やすことがあります。とくに、冷え性や水分代謝の悪い人、胃腸の弱い人は摂り過ぎに注意が必要です。

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これを防ぐため、苦味には、体を温める辛味の食材を合わせてバランスをとる必要があります。苦味を摂りすぎると、辛味が支配する「肺・大腸」の働きが阻害されるため、苦味には辛味を添えて「肺・大腸」の働きを補うと同時に、苦味の摂りすぎによる体の冷えを防ぐことになるわけです。たけのこは辛味の木の芽と合わせ、うどは同じく辛味のからしであえるのも、苦昧による弊害を防ぐためであり、実に理にかなった調理法といえます。私たちの祖先は古来より、こうした食の特性に気づき、食害を予防するための組み合わせに配慮してきたのです。
 私たち日本人は、もう一度旬を感じ伝統食を見直す必要がありそうですね。

 


昭和堂薬局 | 2015年3月17日


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