『昭和堂薬局』

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「精神疾患の病因は脳だけじゃなかった」

 表題の「精神疾患の病因は脳だけじゃなかった」は実験医学6月号の特集の見出しです。精神疾患は、一般的にはうつ病や統合失調症、自閉症などですが、神経変性疾患に伴う認知症など、高齢化社会を迎えた現代は益々増えてきそうな疾患です。

 

 そのような中、精神疾患に関する研究が進んでいます。しかし、精神疾患の治療は、多くの研究が反映することなく、未だに脳内伝達物質であるモノアミンをターゲットにした薬物治療です。これは病態生理メカニズムの理解に基づいた治療ではないと、この書籍では言っています。(所謂対症療法?)

 

 多くの精神疾患の方が漢方相談にお見えになります。精神神経の病名のほとんどは、過去に相談されているように記憶しています。

 

 東洋医学の考え方は、何かが起こっている場所だけを見ることはありません。例えば、今回の精神疾患であれば、脳で起こっていますから、脳だけのことを考えて薬を選ぶことはありません。どうして、どこから、脳に至ったのかを心身の全体像から判断します。(脳といいましたが、東洋医学では、脳の機能と物質である脳自体を区別して考えるのですが)

 

 東洋医学での精神疾患に対する見立て方は、元々脳だけじゃなかったのです。
今後、精神疾患に対する研究が進み、よりよい対処法が出てくれば良いですが、まだ暫く時間がかかりそうですので、東洋医学的アプローチもしてみてもいいんじゃないですか。


昭和堂薬局 | 2021年7月31日

 

日野にある善行寺の季刊誌「やすらぎ通信」より

 日野にある善光寺発行の季刊誌「やすらぎ通信」に掲載されたコラムを私が担当したので、ここでその内容を紹介させていただきます。

 

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり少しずつではありますが、一安心している方もいらっしゃるかもしれません。(引き続き感染予防はしなくてはいけませんが…)
 2019年末に中国から出現した新型コロナウイルス感染症。それから1年半たった今でもまだ収まる兆しすら見えていません。5月31日現在、日本の累計患者数746,933人。日本の人口当たりでは0.596%。死亡者数は13,059人で、人口当たり0.01%、感染者数当たりでは1.75%です。数字にするとそれほど多くない感じがしますが、近年これ程の感染症はありませんでした。

 

 人類の歴史においては、様々な感染症と戦ってきました。14世紀のヨーロッパで流行したペストが有名です。(余談ですが、この時、医師は逃げてしまいましたが、薬剤師が最後まで患者さんの対応をしたことで、ヨーロッパでは医師より薬剤師の地位が上なのだそうです)

 

 その後感染症の病原体や対処法がわかり始めたのが、19世紀後半と言われています。その頃からは感染症の死亡数も減少しています。しかし20世紀後半から、エイズやSARSのような「新興感染症」や結核やマラリヤのような「再興感染症」が問題となっています。そして、新型コロナウイルス感染症です。どうしてまた、感染症が問題になっているのでしょうか?
 ある程度克服したはずなのに…。

 

 前置きが長くなりましたが、このようなことが世界的に起こった背景には、もしかすると現代の食生活や生活習慣に問題があるのかもしれないと私は思っています。(アレルギー疾患が多くなっていることと同じようなメカニズムではと思います)

 

 我々人間は、多くの細菌と共存しています。皮膚や腸管などの粘膜に細菌は存在しています。その代表が腸管で、500~1000種、数は100兆~1,000兆個の腸内細菌が腸内細菌叢(フローラ)を形成し、我々人間と共生関係にあるのです。近年、この腸内細菌の生理的・免疫的役割が少しずつ解ってきています。この腸内細菌叢に影響を与えている物は、食事やその人の生活環境です。衛生的な環境が、アレルギーを多くしているとする説もあります。(あまり雑菌だらけなのも問題ですが…)。そこで、食生活を改善し腸内環境を整えて、病気にならない体づくりをご提案します。発酵食品の薦めです。日本人は昔から多くの発酵食品を摂ってきました。また、日本人は食物繊維も多く取っていたので、腸が長かったそうです。(胴長短足⁈)そして便も多かったらしいですよ。

 

 発酵とは一体何なのでしょう
 発酵とは、微生物の働きによって物質が変化し、人間にとって有益に作用することをいいます。微生物という目に見えない小さな生き物が働いた結果が「発酵」です。発酵を行う微生物のことを総称して「発酵菌」といいます。発酵菌は、発酵により香り成分や新しい味わい、色、栄養価を作り出します。それらの成分がとても美味しく、健康によく、食品の保存性を高めるため、私たち人間は古くから「発酵食品」を作って食べてきました。はるか遠い昔、アラビアの旅商人が山羊の胃袋で作った水筒にミルクを入れて旅立ったところ、数日後に水筒の中から独特の旨味のある白い塊が出てきました。これが発酵食品の起源ではないかと言われています。

 

 紀元前の中国の古書「周礼」や孔子の「論語」、日本最古の医学書「医心方」にも記述がみられる発酵食品は、洋の東西を問わず人々の食生活に影響を与えてきたようです。先人たちは発酵食品が身体にいいことを知っていたのですね。

 

 発酵食品は、その国の気候風土、産物、嗜好性が大きく反映されています。世界各国の民族性や信仰などと関わりを持ちながら、伝統的な食文化を作り上げています。

 

発酵のメリット
・香りや旨味が増す 

 発酵食品を美味しく感じるのは、発酵作用を行う微生物により、元の食材にはない独特の香りや味わいが生まれるからです。
・栄養価が高くなる 

 微生物が、食材を分解・発酵するときに産生される酵素の作用で、新しい栄養成分が生み出されます。また乳酸菌や酵母のように、発酵させる微生物自体にも良い影響を与えるものがたくさんあります。更に、発酵によって体内へ食品栄養成分の吸収がよくなります。
・消化が良い

 食べる前から微生物の働きである程度分解されたものであるため、体に入った際に吸収しやすくなっています。
・保存性が良い   

 発酵によって、発酵菌である微生物が増えているため、他の菌の繁殖を抑えるので、腐敗菌の増殖が抑えられ、保存性が高くなります。

 

 腸内環境
 腸内細菌叢は、食事や生活環境などの影響を受けます。人はその人の母親のお腹から出てきた段階から細菌を受け入れて、母乳によって少しずつその人の細菌叢が決まってきます。
腸内細菌叢を構成する菌種は、多様な分子構造により我々人間の腸管免疫系の誘導・教育・機能獲得などに影響を与えます。近年、腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患だけではなく、肥満、糖尿病、脳神経系の異常、アレルギーなど様々な疾患との関連が報告されています。
そのような観点からも、発酵食品を取り入れることで腸内環境を整え、健康な生活を送れるようになりたいですね。

 

主な発酵食品
豆類   : 納豆 醤油 味噌 豆板醤 豆腐ようなど
魚介類  : 鰹節 塩辛 くさや 魚醤 アンチョビ 酒盗など
肉類   : 生ハム サラミなど
乳製品  : チーズ ヨーグルト サワークリームなど
野菜・果物: ぬか漬け キムチ ピクルス ザーサイ メンマ かんずりなど
穀物   : 甘酒 米酢 黒酢 みりんなど

 

 

腸内環境のちょっと難しい話
 人の腸内には人の全細胞を上回る数の常在微生物が存在しています。その微生物叢は「マイクロバイオータ」と呼ばれています。マイクロバイオータは宿主(人や動物)における免疫応答やエネルギー代謝のみならず、神経系の発達や機能にも関係しています。
 マイクロバイオータは植物残渣を発酵分解し、宿主のエネルギー源となる短鎖脂肪酸や補酵素(ビタミンBやビタミンKなど)を提供しています。生体で消費されるエネルギーの約1割は、この微生物発酵で供給されています。その他にも、インドール系化合物や水酸化脂肪酸、ポリアミンなど多くの代謝物を産生し、その一部は宿主と微生物間の伝達分子として作用しています。 さらにマイクロバイオータは、セロトニンやドーパミンのような神経伝達物質や酪酸などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を産生します。(免疫に関係)
 このようにマイクロバイオータは宿主と良好な共生関係を築き、生体機能に有益な作用をもたらします。一方で、共生バランス失調は、免疫関連疾患や代謝性疾患など全身性疾患の素因や増悪因子になります。その共生バランス失調は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患や自閉症、統合失調症といった精神疾患においても観察されています。


昭和堂薬局 | 2021年7月1日

 

新型コロナウイルス感染症の重症化メカニズム(サイトカインストーム)について

 新型コロナウイルス感染者数が下げ止まり、緊急事態宣言も再々延長される可能性があります。

 

 多くの方が、この感染症に恐れや不安を抱えて生活されているのではないでしょうか。重症化することなく治ってしまえばいいのですが…

 

 この感染症の重症化のメカニズムであるサイトカインストームについて、今言われているメカニズムについてお話します。

 

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の肺への感染に伴って局所の自然免疫系が活性化し、少し遅れてウイルス特異的な獲得免疫系が活性化します。通常はこの時点でウイルスは除去され重症化に至りません。

 

 しかし、T細胞、特にヘルパーT細胞がより活性化してサイトカインが産生され、それらを受けとる非免疫系細胞、特に肺胞上皮細胞、血管内皮細胞でのIL-6(炎症性サイトカイン)アンプ(IL-6産生増幅回路)が活性化し、NF-κB(転写因子)経路が過剰に活性化すると、IL-6を含む大量のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子が産生される状態となります。

 

 この時、SARS-CoV-2ウイルスがACE2(レニンアンジオテンシン変換酵素2)を介して感染することより炎症反応を強める結果となります。これらの強い炎症反応から産生される大量の液性因子は、ウイルス排除に重要なT細胞の疲弊、アナジー(不応答)を引き起こし、その結果、ウイルスが肺以外の臓器に血管内皮細胞を介して感染します。

 

 こうして炎症反応が拡大し、更に大量の液性因子が産生されます。このような大量の液性因子は、血栓誘導も含めてさまざまな臓器の機能不全をもたらし、人のの命を奪います。特に、加齢、既往歴、ストレスなどをもつ場合には、老化した線維芽細胞などの非免疫細胞が過剰にIL-6を産生し、IL-6アンプを過剰に活性化します。

 

 ここでは、IL-6は、主に非免疫細胞にNF-κB信号を増幅する副信号のように機能してサイトカインストームを誘導します。

 

 以上のようなメカニズムのようです。このことをなるべく防ぐためには、元々体が炎症(慢性炎症)を帯びていない状態にすることが重要です。日ごろから油の多い食事を避け、発酵食品や食物繊維を意識してとるようにして、規則正しい生活をしましょう。元気で健康な体作りが予防の早道です。


昭和堂薬局 | 2021年3月13日

 

新型コロナウイルス感染症の症状

 新型コロナウイルス感染症の潜伏期は14日以内です。多くの症例はおおむね5日で発症します。発熱、呼吸器症状(咳嗽、咽頭痛)、頭痛、倦怠感などの症状がみられます。鼻汁や鼻閉の頻度は低いと考えられています。下痢や嘔吐などの消化器症状の頻度は10%未満で、SARSやMERSより少ないと考えられています。臨床症状はインフルエンザや感冒に似ていますが、一部に臭覚・味覚異常を訴える人が存在します。この感染症の典型的なのは、その経過で、一部の症例は7日目前後から呼吸器症状が悪化し、さらに重症化すると10日目以降に集中治療室という経過をたどります。

 

 重症化のリスクファクターとして高齢者、基礎疾患(心血管疾患、心不全、不整脈、糖尿病、悪性腫瘍、慢性呼吸器疾患など)が知られています。また、40歳代までの重症化は少なく、50歳代から年齢が高くなるに従って致命率も高くなっていきます。2020年10月時点で、日本での致命率は60歳代で2.3%、70歳代で7.2%、80歳代で17.5%となっています。

 

 新型コロナウイルス感染症から回復しても、60日経過で臭覚障害(19.4%)、呼吸苦(17.5%)だるさ(15.9%)、咳(7.9%)、味覚障害(4.8%)があり、120日経っても、呼吸苦(11.1%)、臭覚障害(9.7%)、だるさ(9.5%)、咳(6.3%)、味覚障害(1.7%)で、急性期にはなかった脱毛が24%でみられました。

 

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体(IgM、IgG)は発症から2週間で約9割、3週間経過するとほとんどの方で検出されます。しかし、この抗体は発症から数か月で減衰することが報告されています。一度抗体が陽性になっても長期的には陰転化する可能性があります。軽症例よりも中等症・重症が、抗体価が高くなりやすい傾向ですが、長期的には減衰すると考えられています。

 

 日本でもワクチン接種が始まりましたが、まだ、この新型コロナ感染症による不自由な生活はしばらく続くと思われます。自分たちを、新型コロナ(SARS-CoV-2)などから守りながら快適な生活が送れる生活様式を考えていく必要があると思います。 我々が今できる予防は、健康維持ではないでしょうか。バランスのいい食事と適度な睡眠を心がけて、心身ともに「元気」に過ごしましょう。


昭和堂薬局 | 2021年2月20日

 

新型コロナウイルス感染症ワクチンについて

 日本でも医療従事者からワクチン接種が始まりました。今のところ重篤な副反応の報告はありません。一般の方のワクチン接種時期には少し時間がかかります。これから今摂取されているワクチンについてはいろいろな情報が上がり始めると思いますので注目していきたいと思っています。

 

 新型コロナウイルス感染症の流行が自然に収束する可能性は極めて低く、収束にはワクチンの実用化が不可欠であります。現在、世界で開発が進められているワクチンが多くありますが、その中のいくつかをご紹介します。

 

 不活化ワクチン
 不活化ワクチンはホルマリンなどでウイルスの感染性を消失させて、病原体のたんぱく質や成分を免疫原として接種することで抗体を誘導します。このタイプのワクチンは、他の病原体に対し、すでに広く利用されています。

 

 DNAワクチン
 DNAワクチンは病原体のたんぱく質を発現するプラスミドDNAを接種することで、病原体のたんぱく質を体内で産生し免疫を誘導します。このタイプのワクチンは以前から病原体に対するワクチンとして開発が進められていましたが、人においての感染症のためのワクチンとしてまだ実用化されたものはありません。

 

 mRNAワクチン
 mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、病原体のたんぱく質を発現するmRNAを接種することで免疫を誘導します。ファイザー社のワクチンはこのタイプです。

 

 ウイルスベクターワクチン
 病原体の抗原遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを感染させることにより免疫を誘導します。ベクターウイルスを感染させて用いるため、2回目以降感染阻害抗体が誘導され感染を阻害されてしますため、複数回接種には不向きです。アストラゼネカ社のワクチンはこのタイプです。

 

 組換えタンパク質ワクチン
 昆虫、植物および哺乳類動物などを由来とする培養細胞で発現させた病原体のたんぱく質を免疫原として用いるワクチンです。

 

 VLPワクチン
 VLP(ウイルス様粒子)ワクチンは、ウイルス粒子の外殻を構成するたんぱく質だけを用いてウイルスの表面構造を再現した抗原を用いたワクチンです。

 

 どのタイプのワクチンが、高い安全性と有効性を示すかは、まだわかりません。副反応の点でワクチン接種を尻込みしている方も多くいらっしゃるような話をよく聞きますが、それなりの有効性と安全性があるワクチンでしたら、新型コロナウイルスに感染し発症してしまうことを考えるとワクチン接種を選択する方がいいのではないかと思われます。(これは個人的意見です。)


昭和堂薬局 | 2021年2月19日

 

新型コロナウイルスについて

 2019年末に中国武漢に出現し、世界中に伝播した新型コロナウイルス感染症。私たちは今までに経験したことがないウイルス感染症と共に生きていくことを強いられてしまいました。そこで、現時点でわかってきたこのウイルスについて簡単にまとめてみました。

 

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はコロナウイルス科に属するRNAウイルスです。コロナウイルスはヒト以外にもコウモリ、ブタ、ネコ、ネズミ、モグラ、ラクダ、トリなどの動物に病原性を示すものがたくさん存在します。これら多くのコロナウイルスは、オルソコロナウイルス亜科とレトウイルス亜科に分けられ、オルソウイルス亜科はアルファコロナウイルス属・ベータコロナウイルス属・ガンマコロナウイルス属・デルタコロナウイルス属に分類されます。そのうち以前より知られているコロナウイルスは4種類あり、ヒトの風邪ウイルスで軽症の上気道感染症の原因ウイルスでした。これらに加え、2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスと2012年にMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスがヒトに重篤な呼吸器感染症を起こすウイルスとして発見されました。そして今回、ヒトに病原性を示すコロナウイルスとして新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が発見されました。このSARS-CoV-2はベータコロナウイルス属で、ヒトのウイルスではSARSウイルスに近い関係にありますが、野生のコウモリから分離されたコロナウイルスとは更に近い関係にあり、このコウモリのウイルスから派生したウイルスが何らかの理由でヒトに感染して流行がはじまったと考えられています。

 

 コロナウイルスは一本鎖のRNAを遺伝子とするウイルスで、ウイルス粒子はエンペローブ(脂質二重膜)に包まれています。ウイルス粒子の表面はエンペローブから突き出したスパイクと呼ばれるSタンパク質の突起物があります。コロナウイルスのスパイクは大きく王冠(crown)のように見えることが名前の由来になっています。スパイクはウイルスが感染するときに細胞上のレセプターに結合する機能を持っています。以前流行したSARSコロナウイルスはアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)をレセプターとして利用していますが、SARS-CoV-2もACE2を利用していることが実証されました。このレセプターは下気道(肺胞上皮)、上気道、口腔粘膜、舌、小腸、心臓、腎臓にも発現しています。

 

 過去の重篤な病原性を持つコロナウイルス(SARS、MERS)の流行はパンデミックに至りませんでした。なぜ今回の新型コロナウイルス感染症がパンデミックを起こしたのか、それは、体内における増殖特性の差にあると考えられます。SARS・MERSウイルスは下気道(肺)で増殖していました。このためウイルスがなかなか体の外に出にくい状態でした。今回のSARS-CoV-2は下気道のみならず上気道でも増殖し、重篤化の前からたくさんのウイルス粒子が上気道分泌液に排出されていたことで、容易にウイルスが体の外に排出されてしまい、従来の感染重症者隔離策では対抗できなかったのです。(SRASはこの隔離策で収束しています。MRASはラクダがウイルスをもってしまったため完全には収束に至っていません。)


昭和堂薬局 | 2021年2月18日

 

新型コロナウイルスで大騒ぎになってますね

 最近、他の執筆活動があり、本コラムの更新が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

 

 さて、中国武漢市で集団感染した新型コロナウイルスについて、WHO(世界保健機構)が「国際緊急事態」を宣言しました。現在、このウイルスに対する薬はなく、水際対策が中心です。(タイでHIVウイルスとインフルエンザウイルスの薬で効果があったとする報告は出ましたが…)
 不幸にして亡くなられている方々のほとんどは、高齢者や元々何らかの病気を持っている人たちのようです。
 このことから考えると免疫力が弱っていると危険であることが想像できます。
過剰に恐れるのではなく、通常のインフルエンザと同じ様な対策でいいのではないかと思います。情報に過剰に反応して、必要以上に防衛しようとしても、そのことがストレスになり逆に免疫力を下げてしまう結果にもなりかねません。
 漢方的な予防としては、外界から自分の身体を守る「衛気」が重要です。この「衛気」をしっかりさせるためには、バランスの良い食事を摂り、胃腸(脾胃)を調えることが大切です。また、「衛気」は全身に巡り、体を守るもので、ストレスをためてしまったり1日中じっとして身体を動かさないと「衛気」は滞りやすくなります。
漢方で予防する場合は、益気・清熱解毒・抗ウイルスが中心になります。益気の代表処方は玉屏風散、清熱解毒の代表処方は銀翹散、抗ウイルスの代表生薬は板藍です。
 これらの漢方も予防の一例です。これが絶対ではありませんし、各々個人の状況にもよると思います。
もう立春で、暦の上では春になりましたが、まだまだ乾燥や寒さが厳しい季節ですので、保温や保湿には十分気を付けて、過度に恐れて家に閉じこもることは避けないといけません。(春の養生は、陽気を適度に発散することです。)


昭和堂薬局 | 2020年2月4日

 

女性の悩みと中医婦人科

 中医婦人科から見ると、女性の月経・妊娠・出産は、臓腑・経絡・気血・天癸(てんき)が子宮に作用して成立するものです。これらの子宮の機能は女性の生理的な特徴であり、男性と異なっている点であります。
子宮は「奇恒の腑」であり「女子胞」「胞宮」ともいわれ、月経を導き、受胎と妊娠をつかさどる器官です。天癸とは腎から生じる人体の成長・発育・生殖を促す物質であり、気血は月経・妊娠・授乳の物質的基礎です。また臓腑は気血を生成する源であり、経絡は臓腑間のつながりをつかさどり、気血をめぐらせる通路です。したがって女性の生理は、臓腑・経絡・気血を基礎に置いて、臓腑・経絡・気血・天癸と胞宮との全体的な関係を理解しなければなりません。特に腎・肝・脾胃および衝任二脈が、女性の生理機能の営みにおいて重要な役割を果たしています。
※「奇恒の腑」…骨・髓・脳・脈・胆・女子胞のことを指します。「奇恒」とは「普通とは異なる」という意味であり、これらは腑でありながら臓に似た性質を持っています。
「臓」とは気血などを生み出し、貯蔵する存在です。「臓」という漢字のつくりが“蔵”になっているのは貯蔵する意味があるためです。
一方の腑は飲食物を消化・吸収・排泄するための器官であり、通常は中空の袋状の器官です。奇恒の腑はこのような通常の腑から考える「常識」から外れた存在であるため、このように呼ばれます。

 

 婦人科における腎
 腎は先天の本であると同時に元気の根であり、精を貯蔵し、人体の成長・発育・生殖の根本を為すものです。また、精は血に変化する源であり、月経や妊娠の物質的基礎です。女子は第2次成長期に入ると腎気が盛んになり,天癸が成熟するのを待って子宮が初めて機能するようになり、月経が始まり、生殖が可能となります。

 

 婦人科における肝
 肝は血を貯蔵し、疏泄をつかさどり、血海(衝脈、血の貯蔵場所)を制御する働きがありますが、その血の貯蔵および血量の調節機能は、子宮の生理機能に重要な影響を及ぼしています。

 

 婦人科における脾
脾は運化(消化・吸収)をつかさどり、気血を生成する源であるため、後天の本といわれています。同時に脾は血を体外に漏らさぬよう統率する働きがあります。すなわち脾が生成し統率する血が、直接子宮の月経・妊娠の機能に物質的基礎として作用しています。

 

 天癸は、先天の精である腎精より生じ、腎に貯蔵して後天の水穀精微(食べ物などから得られる体にとって必要なもの)によって滋養されています。人体は一定の時期になると、腎気が旺盛になり、腎中の真陰が絶えず充実して天癸が次第に成熟します。天癸は腎中に生じ、人体の成長・発育・生殖を促進する物質の一種です。天癸は子宮と密接な関係にあり、子宮の生理機能を促進し成就させるばかりでなく、月経や妊娠を正常に維持する重要な物質でもあるのです。

 

 このように、婦人科疾患に関係する臓腑は主に腎・肝・脾であることがお分かりいただいたと思います。このことを踏まえ、お悩みの症状を全身の機能調節によって改善していくことを目標に漢方薬を選んでいくことが中医学です。
 若い女性においては、機能性月経困難症、月経前症候群(PMS)、産後の体調不良、肌荒れ、便秘、頭痛、冷え症などがよく見られ、中年以後では更年期症状、自律神経失調症などの不定愁訴がよく店頭にお見えになります。これらがどうして起こっているのかを中医学的に解釈し、改善方法を検討していくのです。

 

 この考えに基かないで漢方薬を服用しているケースをよく目にします。処方薬やドラッグストアで選ぶのではなく、東洋医学の知識のある漢方薬局や漢方医に選んでもらいましょう。


昭和堂薬局 | 2019年12月2日

 

雑誌などで女性の体調に関する特集記事は多いと思います。

 女性は自分の身体に関する情報に対し関心がある方が多く、最近も女性向け雑誌に40歳以降の女性の不調について特集が組まれておりました。その記事では女性ホルモンの不足による影響の可能性がある場合、ホルモン補充療法を勧めている内容でした。
しかし、意外にホルモン補充療法を敬遠する人が多くいることも事実です。重大な病気がないのであれば、漢方という選択肢もいいのではないでしょうか。

 

 東洋医学において女性の体調変化をどうとらえていくかをご説明します。
人間の生理現象を著した東洋医学で有名な条文があります。黄帝内経という2千年前の書籍に書かれています。
その黄帝内経素問「上古天真論篇」には、「女子は七歳になると、腎気が充たされだし、歯が抜けかわり、毛髪もまた長くなってきます。十四歳になると、天癸が発育・成熟し、任脈は伸びやかに通じ、太衝の脈は旺盛になって、月経が時に応じてめぐってきます。だから子供を産むことができます。二十一歳になると、腎気が充満し、智(ち)歯(し)(親知らず)が成長して、身体の丈もまたのびきります。二十八歳になると、筋骨はしっかりして、毛髪ののびも極まります。この時期は身体が最も強壮である時期です。三十五歳になると、陽明経の脈が次第に衰え、顔面部はやつれはじめ、頭髪も抜けはじめます。四十二歳になると、三つの陽経の脈はすべて衰えてしまいます。それゆえ顔面部はまったくやつれ、頭髪もまた白くなりはじめます。四十九歳になると、任脈は空虚になり、太衝の脈は衰え、天癸は竭きて、月経が停止します。それゆえ身体は老い衰えて、もう再び子を産むことはできません。」(現代語黄帝内経素問東洋学術出版社より抜粋)と書かれています。(養〇酒のCMで使われていましたよね。)
ちょっと難しいかもしれませんが、簡単に言えば女性は7の倍数で変化していくということです。そして、14歳で生理が起きて子供が産めるようになり、28歳で腎の力が一番強くなり、少しずつ衰えて、49歳で閉経し子供を作れなくなるといっています。(2千年前も今も女性の生殖サイクルは変わらないんですね)
この女性の生殖に関わる根本的な力は腎精です。
では精を貯蔵している腎について見てみましょう。

 

 腎とは
「腎」は身体の中で最も大切な臓器の一つ。中医学では、広く生殖や成長・発育、ホルモンの分泌、免疫系などの機能を併せ持つ“生命の源”と考えられています。

 

・腎の主な働きは、生命を維持するエネルギー源「精」(成長・生殖機能)を蓄える
・体内の水分をコントロール(排尿機能)する
・酸素を体内に深く吸い込む納気機能
・骨や歯、脳、髪などの生育
・耳や尿道、肛門の機能維持

 

 このように、腎は身体全体の健康と深く関わっています。腎に蓄える精が不足し、機能が衰えると不妊症や精力の減退、更年期障害、骨粗鬆症、排尿トラブル、脱毛、健忘症、聴力の低下といったさまざまな不調や老化現象が現れるのです。

 

 加齢により男女とも腎が衰えていきます。特に女性は閉経という生理現象により、女性ホルモンが急激に減少し様々な症状が現われてきます。(個人差があります)

 

 閉経期(東洋医学では絶経期という)には、眩暈、耳鳴り、ホットフラッシュ、発汗、心悸(動悸)、不眠、煩燥して怒りっぽい、潮熱(夕刻の発熱)または顔面・目・下肢の浮腫、食欲不振、下痢または月経異常、情緒不安定などが現われます。

 

 これは“腎虚”という状態であり、さらに腎陰虚、腎陽虚、腎陰陽両虚という状態に分けることができます。閉経期における女性の3分の2以上が腎陰虚であり、残りが腎陰陽両虚です。閉経期は単純な陽虚はほとんどありません。さらに五臓の心・肝・脾に波及して、いろいろな症状を生じます。

 

 出てくる症状により漢方を選択していく必要があるため、ご相談いただくと幸いです。

 

 また冬は、五行学説で考えると「腎」にあたる時期です。腎は寒さに弱いため、身体が冷えたり不摂生な生活を続けると、機能が衰えやすくなってしまいます。積極的な養生を心がけ、腎を健やかに保ちましょう。


昭和堂薬局 | 2019年11月15日

 

妊活のご相談が増えています。

 妊活におけるご相談が増えており、ご相談に来られる方々の年齢の幅も広がっています。
 男性側に問題があるケースで漢方相談に来る方も増えてきています。

 

 約2千年前に記された東洋医学最古の医学書といわれている「黄帝内経」の中の「上古天真論篇」に、東洋医学における男性の生殖能力に関するメカニズムが書かれています。

 以前このコラムで女性についてはお話してさせていただきましたので、今回は男性の身体の変化について述べてみたいと思います。
「男子は八歳になると、腎気が充実しはじめ、毛髪は長くなり、歯が生えかわります。十六歳になると、腎気が旺盛になり、天癸は発育して成熟し、精気が充満して、射精することができ、男女和合して子を産むことができます。二十四歳になると、腎気は充実し、筋骨はしっかりし、智(ち)歯(し)(親知らず)が成長し、身体もまた伸びて最も盛んになります。三十二歳になると、筋肉が強壮となり、肌肉が豊かで逞しくなります。四十歳になると、腎気が衰えだし、頭髪は抜け、歯は痩せて艶がなくなります。四十八歳になると、陽気が上部で衰え、顔面がやつれ、髪ともみあげはごましおの様に色が変わります。五十六歳になると、肝気が衰え、筋脈の活動が自由でなくなり、天癸は竭きて、精気も少なく、腎臓の気が衰え、肉体疲労が極まります。六十四歳になると、歯は抜け、頭髪も落ちてしまいます。人体の中で腎臓は、水液を主り、五臓六腑の精気を受けとって蔵しているものであります。それゆえ五臓が旺盛であってはじめて、腎臓は精気を洩らすことができるのです。

 年老いると五臓がすべて衰え、筋骨はしっかりしていられなくなり、天癸もまた尽きてしまいます。それゆえ髪の色は白くなり、身体は重くなり、歩くのもおぼつかなくなって、もう再び子を産むことができなくなってしまうのです。」(現代語訳黄帝内経素問上巻 東洋学術出版より)

 

 少し難しい部分はあると思いますが、男性は8の倍数で体が変化していきます。(女性は7の倍数でした)男性は女性に比べ少し発育が遅いようです。
 東洋医学において生殖に関わる臓腑の中心は「腎」です。これは男性でも女性でも同じです。上述した男性の8の倍数での変化は、腎の力の満ち引きです。もともと人間は両親の精を授かり生まれます。この精を「先天の精」といい腎に蓄えられています。この精は、食べ物や呼吸により得られる「後天の精」でさらに充実してきます。すると、男性は16歳で、ある一定以上精が充満し、射精できるようになり子供を作れるようになるのです。2千年も前にここまでしっかり書かれていることは驚きです。

 

 冒頭でも述べましたが、子宝相談の年齢の幅が広がり、若い方も多くご来店されています。以前と比較すると若い方が増えている印象です。近年の不妊の原因は晩婚化による妊娠希望者の高齢化といわれていましたが、どうやらそれだけではないようです。
 そもそも、夫婦が性交しなければ普通妊娠はしません。当たり前ですが…。性交することは人間の本能で、ある一定の年齢層では性欲はあることが普通です。しかし、子宝相談に来る方達の中にはタイミングの時以外ほとんど性交していないケースが多いように感じます。

 

 これらを総合して考えると、精が旺盛である筈の年齢でも精が不足しているということです。ご両親からの先天の精の不足か、食べ物などから受ける後天の精の不足または何らかの原因で精を消耗してしまったのかの何れかです。

 

 日本人は島国育ちで元々胃腸が弱く後天の精が不足しやすいためか、欧米人に比べ性交回数は少ないという報告があります。

 

 妊活をお考えのご夫婦は、もう一度自分たちの食生活などを見直していただいて、それをベースに漢方で腎を中心に補っていくことが必要だと思われます。


昭和堂薬局 | 2019年11月2日


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