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自閉症リスク ~備えあれば患(憂)いなし~

 初婚年齢の上昇に伴い、結婚する際の平均年齢も上昇しているため、不妊症や高齢出産が年々増加傾向にある中で子供の発達障害が健康ニュースなどで取り上げられることが多くなり、不安に感じている方も多くいらっしゃると思います。そんな中、基礎医学の世界において「神経免疫学」の分野が盛んに研究され、自閉症についても少しずつ解明が進んできています。

 

 自閉スペクトラム症(ASD)は、先天性の小児発達障害です。その患児数は年々増加して、今や1%を超える率となっています。現在の治療法は、対症療法が中心で根本的な治療法はまだありません。

 

 病因について、遺伝子要因と母体環境要因が考えられています。遺伝子要因に関しては、ゲノム解析により変異や重複、欠損などが複数の遺伝子で見いだされてはいるものの、その全容を説明できるに至っていないのが現状です。しかし、神経回路に関する遺伝子に異常が多くみられることから、神経回路の機能不全の高次機能障害であると考えられています。

 

 母体環境要因としては、妊娠期のウイルス感染やある種の薬物による免疫機能亢進が挙げられます。これまでの臨床的知見から、ASDはアトピーや気管支喘息、過敏性腸症候群などアレルギー疾患を併発していることが多いことがわかっています。このことから病因には脳神経回路の異常と共に免疫系の異常も関わっていると考えられます。

 

 詳細は割愛しますが、簡略に説明すると、妊娠中のウイルス感染などで母体の免疫活性が亢進し、免疫細胞であるTh17細胞が活性化し、IL-17aという炎症性サイトカインの発現が亢進して、このサイトカインが胎盤を通過し、胎児の体内まで運ばれ発達過程の脳に影響を及ぼすことがわかってきました。
ASDの病因・病態が明らかに成ってきたことで、予防や治療法の開発が始まっています。しかし、薬ができるのはまだまだ先のことになるでしょう。

 

 私たちが普段からできることは、腸内細菌叢依存的に起こる免疫の過剰亢進を起こさないように、妊娠前から腸内細菌叢を良性菌優位な健康な状態に保つこと、感染を予防し炎症反応を起こさないようにすることです。専門家もASDの予防・治療効果の観点から、プレ・プロバイオティクスが期待できると述べています。
正に備えあれば患いなしです。


昭和堂薬局 | 2018年12月18日

 

産後うつについて

 9月19日のコラムでお話しした「産後うつ」について、現在までわかっていることをお話したいと思います。

 

 出産後1年未満に亡くなられた方の内訳をみると半数近くが自死によるものであり、専門家は産後うつが関係しているとの報道がなされました。現在、産後うつに対して選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)などの標準的な抗うつ剤が処方されていますが、産後うつの場合、神経伝達物質のセロトニンの関与は少ないと言われています。

 

 妊娠すると生殖系のホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンが上昇します。また、プロゲステロンの代謝物であるアロプレグナロンというホルモンの脳内レベルも上昇します。このアロプレグナロンは、抑制系の神経科学物質GABAの受容体を活性化します。しかし、妊娠中はアロプレグナロンによるGABA受容体の過剰活性化を避けるため、GABA受容体は休眠しています。

 

 産後、エストロゲン、プロゲステロン、アロプレグナロンは直ちに正常に戻ります。通常GABA受容体の活性も同様な回復をみせるのですが、産後うつになられる方はGABA受容体の活性回復に時間を要し、そのことが発症を引き起こすと言われています。ただし、それのみが原因となっているのかは今のところ判明しておりません。

 

 最近、このアロプレグナロンのレベルを下げることでGABA受容体を活性化し、健全なレベルを保つ新薬の臨床試験が海外で始まっています。現在までの結果は有望のようです。
しかし、この新薬の普及にはまだ時間がかかると思われます。どの程度効果があるのかも、まだわかりません。(そして、副作用の問題も…)

 

 中医学的には妊娠・出産・授乳は全身の血を消耗します。また、出産時に出血や体力の消耗により気血をさらに消耗し、心血が不足することで不安感が増し、産後うつを引き起こす原因になります。

 

 このようなことを防ぐために、陰血を妊娠中から補い、産後すこし変だと感じたら心血を補う漢方などを服用するのがお勧めです。


昭和堂薬局 | 2018年12月11日

 

子宮内膜症と不妊

 不妊に悩む女性の多くで子宮内膜症を患っている方がいらっしゃいます。子宮内膜症があると何故不妊症になってしまう方が多いのでしょうか?
 最近、少しずつその原因がわかってきました。

 

 子宮内膜症があると、子宮への卵子の移動を妨げ、また子宮内膜症で生じた炎症によって卵胞の質や量を低下させることがあるようです。また、炎症によって生じた炎症性サイトカインの影響で、卵管を通る精子の運動性が低下し、卵子や胚が傷つくこともあるようです。

 

 ホルモンの分泌や感受性にも問題が生じてきます。通常、排卵後子宮壁のエストロゲン受容体が減って着床の準備をします。そしてプロゲステロンが増えて子宮は着床に備えます。しかし、子宮内膜症があるとプロゲステロン抵抗性になり、着床しにくくなってたり、早産や流産のリスクを高めたりします。

 

 更に子宮には細菌叢がありますが、この細菌叢のバランスが乱れます。多くの女性は乳酸菌が優位で、これが着床や胚の成長を助けていると考えられています。推測の段階ですが、炎症によって乳酸菌が減ってしまうことにより細菌叢のバランスが崩れているため不妊になっている可能性もあるようです。

 

 といっても、悪い話ばかりではなく子宮内膜症の方の体外受精の成功率は高いようで、妊娠中はホルモンバランスが変わり症状も軽くなります。

 

 子宮内膜症の原因は現在もわかっていません。有力な説は「逆行性月経」です。それは月経時に子宮由来の細胞を含む経血が卵管を逆流するという現象があり、通常は免疫系の細胞によって排除されるものが、何らかの原因により骨盤内臓器や腹腔内に付着したりするというものです。

 

 また、子宮内膜症の治療も確立したものはなく、唯一可能性があるものは外科的な除去だけです。

 

 前回のコラムで中医学的な子宮内膜症のとらえ方をお話ししています。参考にしてみてください。


昭和堂薬局 | 2018年12月3日

 

相談数が多い子宮筋腫、卵巣嚢腫と中医学

 中医学では、腹部腫瘤のすべてを癥瘕(ちょうか)と呼ばれています。その癥瘕には、西洋医学でいう子宮筋腫、子宮内膜症、骨盤内炎症性腫瘤、卵巣嚢腫などが該当します。

 

 癥とは、征(触れることができる)であり形があり堅硬で移動性がないものです。瘕とは、假(はっきりと触れない)であり、形が聚まったり散らばったりするものです。大雑把にいうと癥は血が集まったもので、瘕は気が集まったものと解釈しますが、臨床的には明確に区別ができないので癥瘕として扱い、問診で判断していきます。多くのケースは両方があると判断することが多いと思います。

 

 19世紀後半から上海で活躍した三大大家のうちの一人、朱氏婦人科の書籍では、病因を4つに分けています。
① 産後に風寒を感受したもの
② 月経時に寒邪が入ったもの
③ 寒湿を下焦に感受したもの
④ 産後や月経時に、食事の不摂生や気候の変調があった物
以上の原因から血脈が渋り、経絡が滞り、トンネルが塞がったのであると述べています。

 

 また、中医学の多くの古典でも寒邪の影響だと述べていますが、実際には寒邪の影響と判断されることは、それ程多くないように感じます。

 

 処方的には活血理気薬を中心に使用しますが、形を伴うものであるために破血消瘀薬が必要なケースも多くあります。また、子宮筋腫など腫瘤を消失させることはなかなか難しいことです。一般的には閉経後、筋腫や内膜症などの腫瘤は自然萎縮することが多いようです。

 

 しかし、妊娠希望のケースは月経を整えながら同時に筋腫や嚢腫が邪魔をしないように考慮していきます。


昭和堂薬局 | 2018年11月26日

 

ストレスと不妊

 妊娠を希望する女性にとってストレスが良くないことは皆さん何となく理解していると思います。

一方で現代はストレス社会といわれています。実際ストレスがない人がいるのでしょうか?

ストレスは多種多様なもので、気温が高く暑いと感じたりすることもストレスとなりえます。人によって物事の感じ方や捉え方は様々で、そのストレスによって「ストレス反応」が出るものを、ストレスと呼びます。

 

 ストレス反応が起こると、副腎から副腎皮質ホルモンの一つであるコルチゾールというホルモンが分泌されます。このホルモンを「ストレスホルモン」と呼んでいます。 このコルチゾールの分泌は、脳の下垂体から放出される副腎皮質を刺激するホルモン「副腎皮質刺激ホルモン」によって調節されます。そして、この「副腎皮質刺激ホルモン」は、さらに下垂体の上位にある視床下部から放出される「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」によって調節されています。(「視床下部-下垂体―副腎」)

 

 このホルモンの流れ「視床下部―下垂体―副腎」が、女性の生殖器のホルモンの流れ「視床下部―下垂体―卵巣」に影響しているのです。

 

 では、中医学のストレスによる不妊はどうなっているのでしょうか 古書によると、感情が舒暢(じょよう:心をのびのびさせること)されないと肝気が条達(伸びやか)できなくなり、気血の調和が乱れると、衝任(月経に関わる経絡)は互いに滋養できなくなって不妊となる。肝気の鬱滞により血行がスムースでなくなると、月経前に乳房が脹り、月経量が少なくなり、黯色で血塊が混じる。肝鬱のために感情が抑鬱され、鬱が火へ変化すると煩燥して怒りやすくなる。疏泄機能が失調すると月経周期が前後して不安定となる、とされています。

 

 少し難しくなってしまいましたが、精神的ストレスがあると肝がうまく働けず、肝は女性の発育や生殖にかかわりがあり、不妊となってしまうのです。 治療そのものがストレスとなっている場合もあります。 そのような場合、漢方薬を治療の手助けの一端として使用してみてはいかがでしょうか。


昭和堂薬局 | 2018年10月29日

 

これからの風邪・インフルエンザ対策に!





 だいぶ気温も下がってきて、そろそろ風邪やインフルエンザが流行る時期になってきました。今年はすでにインフルエンザがニュースになりましたが、これからが本番です。

 

 予防的には、ストレスや疲労で免疫力を落とさないようにすることと、のどや鼻の粘膜を乾燥させないことが重要です。

 

 そこで、昭和堂薬局では、潤肺養津(肺陰を養い、肺燥を潤す)の麦門冬、元気(防御力)を補い、肺気を補う人参、収斂作用のある五味子で構成されている生脈散(麦味参顆粒)がいいのではないかと思っています。

 

 実際、店頭でもこの処方と板藍茶(中国ではインフルエンザ予防に使われています)や板藍のど飴が、最近よく売れています。


昭和堂薬局 | 2018年10月17日

 

オメガ3脂肪酸の抗不安効果について

 国立がん研究センターらの共同研究グループが、青魚等に含まれるオメガ3脂肪酸の抗不安効果を、19件の臨床研究をメタ解析で検討し、その結果、オメガ3脂肪酸の摂取により不安症状が軽減すること、また身体疾患や精神疾患等を抱えている場合にその効果が高いことを明らかにし、米国医師会雑誌の「JAMA Network Open」に掲載されました。

 

 今回の研究は、“不安”という一般的にみられる神経症状ですが、メンタル疾患であるうつ病についての末梢血多価不飽和脂肪酸のメタ解析では、うつ病患者では健常人に比べオメガ3系のαリノレン酸やEPA、DHAが低値であるが、オメガ6系のアラキドン酸は差はなかったそうです。

 

 また、うつ病患者では、炎症性サイトカインであるIL-1やTNF-αが増加していることが示されました。このことからEPAの抗うつ効果はおそら抗炎症効果が関係しているようです。別の研究では、リノール酸がうつ病のリスクを増加することが示されています。

 

 今回の国立がん研究センターの抗不安効果については、オメガ3脂肪酸2g以上の摂取といっています。サンマだと1匹半でそのくらいでそのくらいになると思います。

 

 これらのことを鑑みると、健康には食が重要ですね。


昭和堂薬局 | 2018年10月3日

 

出産後1年未満の女性の死因について

 2016年までの2年間で、産後1年までに自殺した妊産婦は全国で少なくとも102人いたと、厚生労働省研究班が5日発表しました。全国規模のこうした調査は初めて。この期間の妊産婦の死因では、がんや心疾患などを上回り、自殺が最も多かったそうです。
 妊産婦は子育てへの不安や生活環境の変化から、精神的に不安定になりやすいとされています。研究班は「産後うつ」などメンタルヘルスの悪化で自殺に至るケースも多いとみて、産科施設や行政の連携といった支援の重要性を指摘しています。

 

 性差医学では、うつ病の有病率は男性の1.5~3倍といわれています。年齢別でみていくと高齢になると男女差が顕著になります。また、マタニティハラスメントや保育園待機児童などの問題も女性が受ける影響です。
メンタルと性差に関しては古くから言われていて、「ヒステリー」という言葉の語源は古代ギリシャ語のhstera(子宮)だそうです。また、妊娠・出産という心身に負担のかかることを経ていることや性差医学の結果からもホルモンの変化が関係している可能性を示唆しています。

 

 東洋医学的に見ていくと、妊娠・出産・授乳により“血”が不足して“心”に血を送れなくなり不安や不眠を招いてしまったことと、生殖にかかわっている“腎”に負担がかかり“心”をコントロールできなくなった可能性があります。
 妊娠中から“血”を補うような漢方薬を飲んでおくと、このようなことが防げます。また、この傾向が出てきてしまった場合には、原因である心血を補い、心を安定させる安心薬が入った処方を中心に服用していくといいと思います。


昭和堂薬局 | 2018年9月19日

 

どうすればいいの? -糖尿病・メタボリックシンドロームー

 糖尿病(2型)・メタボリックシンドロームは生活習慣の乱れから、内臓脂肪の蓄積とそれによる慢性炎症が生じ、インスリン抵抗性を発症することが病態の基盤と考えられています。しかし近年、その病態に腸内細菌が関与することが明らかに成ってきました。

 

 また一方では、糖尿病やメタボリックシンドロームの原因と考えらえてきた食事や運動によって腸内細菌叢を変化させることも報告されています。

 

 食事については、以前考えられていたエネルギー過剰摂取による内臓脂肪蓄積ではなく、脂質の過剰摂取による腸管の慢性炎症とバリア機能障害が、インスリン抵抗性と糖尿病発症に重要であることが示されています。

 

 この腸内細菌叢の変化と腸管機能障害の改善が、糖尿病やメタボリックシンドロームの改善につながると考えられています。実際に乳酸菌などのプロバイオティクス、オリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクスが、インスリン抵抗性の改善した報告があります。これは、腸管機能の回復により慢性炎症が回復したことが関与している可能性があります。
 逆に悪化させる食事は、高脂肪食・低食物繊維です。この高脂肪・低食物繊維食は、腸内細菌叢を変化させ、腸管バリア機能低下により炎症性物質であるLSPを吸収し慢性炎症を惹起しています。

 

 また、日常生活の中で我々が摂取しているいくつかの食品添加物によって腸内細菌叢の変化が起こり、腸管バリア機能などが障害され、糖尿病やメタボリックシンドロームが増悪する可能性も報告されています。

 

 以上のことから、糖尿病にならないためには、腸内環境をの改善が不可欠です。食物繊維や醗酵食品をしっかり摂り、腸内環境の改善に努めましょう。


昭和堂薬局 | 2018年9月14日

 

中医学の便秘について

 前々回(8月15日)コラムで、腸内細菌叢と便秘についてお話させていただきました。 その中で紹介させていただいた「慢性便秘症診療ガイドライン」の中に漢方薬が挙げられており、エビデンスレベルが低く、また漢方の処方に偏りがあったので、実際の中医学における便秘に対する考え方をご紹介します。

 

 基本的に中医学は体全体を診る学問であるため、西洋医学と違い便秘は病気の中にある一つの症状であることが多いのですが、便秘を主症と考えてお話していきます。

 

1. 陽気が旺盛な人が、お酒や辛熱厚味の食品を過食して胃腸に熱が積して、陽の潤いを失い大便が秘結して排泄が困難になる場合(熱秘といいます。)

 

2. 過度の憂愁思慮のため情志不舒となり、気が鬱滞して通降が失調して大便が内停して下行することができず大便秘結となる場合

 

3. 虚弱な体質の人は気血両虚になりやすく、気虚では大便の伝送が無力になり、血虚では津液(水)が枯渇して大腸を滋潤できずに便秘となる場合

 

4. 陽虚で虚弱な人や老人で体力の衰えた人は、寒が内に生じて、これが胃腸に留まると、陽気が不通となり、便の伝送が困難になる場合

 

 また、便秘によって引き起こされる症状があります。便秘のため腑気が不通となり、濁気が降りることができず、頭痛・頭暈・腹中脹満、甚だしい場合は疼痛・脘悶曖気(胃がつかえてゲップがでる)・飲食減退・睡眠不安・心煩昜怒(胸がざわざわしてすぐに怒る)などの症状を伴います。長期に及ぶと痔を引き起こします。

 

 便秘は、単に下せば解決するわけではないので、病因に基づいて治療しなければいけません。 一般的に漢方の便秘薬というと下剤の類を想像する方が多いと思いますが、意外に下剤類が入った処方を使わないことが多く、すべての疾患にいえる事ですが、漢方治療においては、西洋医学の病名ではなく、漢方の診断基準を用いて、患者さんの主症状や悪化条件、体質などを分析し、きちんと判別していく事が最も重要です。


昭和堂薬局 | 2018年9月1日


横浜ポルタ内にある漢方薬局。あなたの健康な体を取り戻すお手伝いを致します。