『昭和堂薬局』

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やすらぎ通信平成28年秋彼岸号

 2年間、計8回にわたり「やすらぎ通信」のコラムを書いてきました。そこで、東洋医学での“ものさし”である陰陽や季節の養生法を通じ五蔵(五行学説)についてお話をしてきました。 

 今回は、それら『東洋医学の“ものさし”において、健康とは?』と『先人がどうして養生が重要だと語っているのか』をお話していきたいと思います。 

 

  東洋医学的健康とは 

 一般的に健康とはどんな状態の事をいうのでしょうか?お医者さんで検査してもらって異常がなければ健康なのでしょうか? 例えば冷えがあり、つらくてしょうがない人が検査をして異常がなければ西洋医学では何もできません。しかし、その人はつらいのです。これではその人は、健康とは言えないでしょう。 

 

 東洋医学が考える健康とは、臓腑などの体のシステムの働きが正常で、そのシステム全体のバランスが取れている状態です。そして、このバランスは季節などの外界の環境とのバランスも含まれます。また、体だけではなく心も含めてバランスが取れている状態が「健康」なのです。例えば冷えですが、冬に体を冷やすアイスクリームを食べていると寒邪が体に入ってきて冷えが発生します。あるいは、胃腸が弱く上手く食べ物を消化ができず、そこからエネルギーが作れずに冷えが発生しているかもしれません。 前者は陰陽のバランス、後者は臓腑のバランスが悪くなっていて健康とは言えません。 

 

 陰陽の“ものさし”とは 

 第1回目でお話しした「陰陽」です。東洋医学では世の中のすべてのものを「陰」と「陽」に分けています。天は「陽」、地は「陰」、夏は「陽」、冬は「陰」という具合です。そしてこの比較は相手がいて初めて成り立ちます。例えば、陰の季節の冬の昼は、冬の夜に対して「陽」なのです。このように変化をしながらバランスを保っています。 では、体の働きとしての陰陽を見てみると、基本的には「物質=陰」「機能=陽」と捉えます。物質とは簡単に言うと「血」「水(津液)」です。また、機能は「気」というエネルギーです。私たちの体の働きは、これらの物質と機能(陰と陽)のバランスが保たれていることが必要なのです。 

 

 現代は暑く陽気が盛んな夏に、クーラーで冷やされる事で冷えが発生します。これは暑い時期は汗腺を開けて発汗して体の熱を逃がそうとしているのに、クーラーで過剰に冷やされると寒邪が入りやすくなるからなのです。冬に寒邪が入りにくいのは汗腺を締めて、体が冬に備えているからなのです。 クーラーを例にしましたが、食べ物にも言えることです。夏が旬の食べ物は体を冷やすようになっているのに、今は1年通して食べることができます。冬に夏の食べ物ばかりを食べてしまうと体が冷えてしまいます。自然界は上手くできているのに、あまり不自然なことをするとバランスが崩れてしまうのです。 

 

 五行学説としてのバランス 

 東洋医学は陰陽の他に、世界を5つの物から出来ていると考えました。

 この5つの物は「木・火・土・金・水」です。季節の養生で少しお話していますが、木は、火は、土は長夏(梅雨)、金は、水はです。この五蔵は、木は、火は、土は、金は、水はです。その他、味()や志()なども5つに分けられます。そして、これらのバランスが崩れると健康ではなくなってしますのです。 

 

 では、この5つの物はどのように成り立っているのでしょうか。 

 五行の間には、「お互いに依存する関係(相生(そうせい)関係)」と「お互いに抑える関係(相克(そうこく)関係)」があります。五行学説はこの2つの関係がバランスをとることでうまく成り立っています。 相生関係は、「木は火を生む」「火は土を生む」「土は金を生む」「金は水を生む」「水は木を生む」という母と子の関係になっています。相克関係は、「木は土を抑える」「土は水を抑える」「水は火を抑える」「火は金を抑える」「金は木を抑える」という関係になっています。

 

 これらの「依存する関係」「お互いに抑える関係」のバランスが取れているとうまくまわっていくのです。ちょっとわかりにくいかもしれませんので例えると、ストレスがあると(ストレスは肝に影響する)心に影響して不眠や不安などが起こります。これは肝と心の相生関係がうまくいかなくなって起こる現象です。また、ストレスがあると人によっては胃腸の調子が悪くなります。これは、肝が脾(胃腸)を抑え(相克)すぎてしまうことで起こる現象なのです。 

 また、日本は四季があり季節が移り替わります。季節も5つ分けられました。そして其々にその季節の性質があり、それに反することをすると我々の体に影響を及ぼして体調が悪くなります。それを防ぐことが養生法なのです。 

 

 健康で元気に楽しく人生を送ることは、誰もが望んでいることです。先人もそう考え、養生の教えを伝えています。日本の伝統的な食べ物も理にかなった組み合わせになっています。「一汁三菜」という言葉がありますが、これが日本の食卓の基本でした。ご飯に味噌汁(一汁)、主菜(焼き魚など)ひとつに副菜(煮物や酢の物)ふたつ(三菜)、これに漬物、季節の果物が添えられます。ごはんで炭水化物、汁物でミネラル・水分、焼き魚などでたんぱく質・脂質、副菜で食物繊維やビタミン・ミネラル、漬物でお腹に必要な菌が摂れます。理想的ですよね。では、今の食卓はどうでしょう? また、食べ物にも陰陽、五味があります。黄帝内経に「五味は口から胃に入り、五臓の気を養う」と言っています。このように五味は五臓と密接な関係しています。

 人は精という生命エネルギーを持っています。この精は親から受け継いだ先天の精と食べ物などから得た後天の精があり、後天の精を食べ物から得られないと精は消耗してしまうのです。

 私たちが食べている伝統的な「一汁三菜」の食事は、先人が教える五味がそろっています。甘味のご飯、鹹味の味噌汁、甘味または鹹味の魚や肉、そこに添えられる辛味の薬味、酸味の酢の物、甘味と苦味の三菜や野菜の煮物などと五味の調和がとれ、五臓の気を養っているのです。


昭和堂薬局 | 2016年9月29日

 

やすらぎ通信平成28年お盆号

やすらぎ通信平成28年お盆号

 

 夏本番になってきました。日本は島国ということもあり高温・多湿でこの時期、食欲もなくなり体力も奪われます。そんな時期に「土用の丑の日」があり、鰻の蒲焼を食べることが習慣になっています。今回はその土用についてお話したいと思います。
土用(どよう)
 土用は、正式には土用用事といいます。土用というと夏を思い浮かべる方も多いと思いますが、土用は各季節の変わり目にあります。以前に春夏秋冬の養生の話をしましたが、これは五行説に基づいた話です。五行というくらいですから五つないといけないですよね。この五行説では、万物を木・火・土・金・水に分かれるといっています。春夏秋冬の4つともう一つが土用というわけです。土用は立春、立夏、立秋、立冬の前約18日間をいい、季節というよりは、一つの季節から次の季節に変わる調節の期間というわけです。土は、万物を生み育てるという変化を司る性質があります。そのことからも、各季節の終わりに「土」がものを変化させることを意味します。土用に入る日を「土用入り」、土用が終わる日を「土用明け」といい、今年の夏土用は、土用入りが7月19日で土用明けが8月6日です。
 土用の時期は、季節の変わり目ということもあり体調を崩す人も多くいます。特に暑さも厳しく疲れやすくなる夏土用は、古くから精のつくものを食べる習慣があり、よく知られたものに「土用うなぎ」があります。その他に「土用しじみ」「土用餅」「土用卵」などがあります。これらは栄養価が高く、体力の落ちた体のエネルギー源となるものです。夏土用に限らず、土用は季節の変わり目で体調を崩しやすい時期ですから、こうした精のつくもので体を補う必要があるのです。夏バテに鰻を食べるという関係は古く、奈良時代から食べられていたようです。また、土用の丑の日に鰻を食べるようになったのは、一説には江戸時代の万能学者であり、発明家でもある平賀源内が仕掛けたもので、知り合いのうなぎ屋さんが夏はうなぎが売れないと困っていたのを見て、店の前に「土用丑の日、うなぎの日」という貼り紙をしたのです。これが大当たりして、土用の丑の日にうなぎを食べる風習になったといわれています。
◆ 土用は五臓六腑では「脾・胃」と関係
 土用は、五臓六腑では「脾・胃」と関係が深く、また「脾・胃」が疲れやすい時期です。
東洋医学では、「脾」は西洋医学の脾臓とは異なり消化吸収を担う器官です。「脾」は気や血を生み出す働きがあり、「後天の本(後天的なエネルギーや栄養の元)」または「気血生化の源」と呼ばれる重要な臓器です。その働きは、飲食物を消化吸収し、得られたエネルギー(気)や栄養(血・体液)を全身に運ぶ役割があります。私たちの身体を健康に維持する大本であるため、「後天の本」と呼ばれるのです。ちなみに「先天の本」は精のことで親から受け継いだエネルギーや栄養のことです。
 五臓六腑の源である「脾・胃」が健康であれば、筋肉や四肢も力強く、食欲も旺盛で元気に生活できます。逆に「脾・胃」が病んでしまうと、食欲不振や消化不良などの消化器症状や体液が流れにくくなり、血や水が滞り、めまいやむくみ、口の粘り、肌荒れなどが現れます。「脾・胃」は栄養の供給源ですから、「脾・胃」が元気で食欲もあることは、体全体が元気で長生きできるためでもあります。
 土用に衰えやすい「脾・胃」を補うのが甘味の食材です。甘味は、砂糖や蜂蜜などの甘味の調味料をはじめ、穀物や野菜、豆類、肉、魚などかなりの食物が甘味に属します。すべての食材を五味に分けると約7割が甘味の物なのです。土用に食べられる伝統的な土用鰻や土用しじみ、土用餅、土用卵も甘味に属し、「脾・胃」を補う物が選ばれているのです。
◆ 土用うなぎ
 「うなぎ」には良質のたんぱく質、ビタミン、ミネラルがバランスよく含まれ、強壮食品として理想的な食物です。体を温める温性のため、夏場、水分や冷たいものの摂りすぎで弱っている胃腸を保護するにはうってつけです。うなぎに豊富に含まれるビタミンEは、血液の流れをよくする効果があり、冷房で悪化した血液の流れを促すのにも役立ちます。
 うなぎには必ず「山椒」が添えられますが、ここにも先人の深い知恵が秘められています。辛味に属する山椒は、防腐、殺菌効果が高く、暑い盛りに食べたうなぎが、腸内で腐敗発酵するのを防ぐ役目を担っているのです。胃腸の働きを活発にして、脂っこいうなぎの消化を促進する効果もあります。山椒のピリリとした辛味と風味は、うなぎ独特の臭みを消し、濃厚な蒲焼きの味を引き締めます。さらに、苦味の「肝吸い」まで飲むと、より脾・胃を滋養する食べ物としてバランスがよくなります。脾・胃を生み育て、働きを生かすのが、苦味だからです。苦味(心)の相剋にあたるのが「肺・大腸」ですが、これは山椒によって補える組み合わせになっているのです。ただし、うなぎは脂肪分が多いため、胃腸が弱っている場合は控えましょう。とくに、冷たいものとの食べ合わせは避けたほうがよいでしょう。脂肪分と一緒に冷たいものを食べると消化しにくくなるからです。
 もうひとつ、夏バテ解消の妙薬となるのが「麦とろ」です。大麦は五穀の長といわれ、五穀の中でも薬効が高いとされ、体を冷やす作用があります。「やまいも」は脾・胃の働きを助け、滋養強壮、消化促進作用があります。これに、「ねぎ」や「わさび」などの胃腸の働きを助ける薬味を添えれば、最強の夏バテ撃退食といえるでしょう。
 疲労物質を取り除いてくれるクエン酸を豊富に含んだ「梅干し」や「酢の物」など、酸味の食材も夏の疲れを癒し、低下した食欲を回復してくれます。
 暑い時期は、そうめんや冷や麦など冷たい麺類でさっぱりという人も多いですが、炭水化物のエネルギーは吸収されても、体を温めるたんぱく質が不足して、冷えを助長することにもなりかねません。そうめんや冷麦を食べるときは体温を上げ、体を内側から温めてくれる、肉や魚、豆腐、卵などのたんぱく質を摂るようにしましょう。
 夏バテだからといって食べないと体力は低下して、やる気も元気もなくなります。夏こそ食が肝腎です。毎日の食事で体のバランスを整えてください。

昭和堂薬局 | 2016年7月5日

 

テレビで取り上げられた「腸内環境」が話題ですね!

文書

 

 先月、腸内環境についての話題がテレビで取り上げられていました。

 腸管は、腸内細菌や口を通じて外界のいろいろな細菌に曝されています。腸管内には数百種類以上でおよそ100兆個もの腸内細菌が棲息しています。その腸内細菌の集合を腸内細菌叢と呼びます。これらは食べ物や消化液などにより、その構成が変化します。また腸内細菌叢の構成や腸内発酵によりつくられた代謝産物が、腸管上皮細胞や免疫細胞、神経細胞、内分泌細胞に作用することで生体機能全体に影響を与え、それが再び腸内細菌叢の構成に影響しています。通常それが複雑な腸内生態系の絶妙なバランスのもと、恒常性を維持しています。外界からのストレスや老化などの多少のバランスの崩れはもとに戻す頑健性を持っていますが、過度のストレスなどの外的要素などでその恒常性が破錠すると、腸管防御能が低下したり、炎症性腸炎や大腸がんといった腸管関連疾患を発症したり、肥満や糖尿病などの代謝性疾患の発症に影響をおよぼしたりします。

 

 ヒトの腸内細菌は、食習慣で3つのタイプに分かれます。「肉食系」はBacteroidesタイプ、「草食系」はPrevotellaタイプ、「雑食系」はRuminococcusタイプになり、日本人は、もともと食物繊維の摂取量が多いのでPrevotellaタイプになります。しかし、今の日本は食の欧米化で食環境が変わってきています。それに伴い欧米の人に多かった大腸がんが増えてきています。

 

 腸内細菌叢は遺伝的素因も関係していて、双子を調べた実験では、Christensenellaceaeという細菌類の存在量が二卵性双生児より一卵性双生児で似ていて、その量が少ないほど太っていたそうです。「その子の将来は親を見ろ」といいますが、そういうことなんですね。

 

 繰り返しになりますが、環境要素のうち食習慣が腸内環境と密接に関わっています。日本では近年、食の欧米化で大腸がんが増えていますが、食事内容と大腸がんの関連を示す研究報告があります。アフリカ系アメリカ人の大腸がん発症率は、南アフリカ農村部に住むアフリカ人の大腸がん発症率と比較すると10倍以上高いことが知られており、両者の食習慣は大きく異なっています。アフリカ系アメリカ人は高動物性タンパク質、高脂肪、低食物繊維の典型的な欧米食で、南アフリカ農村部のアフリカ人は逆に高食物繊維、低脂肪の食習慣だった、彼らの食事を2週間逆にして腸内環境を見ると、農村部の食事をしたアフリカ系アメリカ人では腸内で糖質の代謝発酵が促進し、制御性T細胞の分化を誘導する短鎖脂肪酸の産生が増加しました。また、腸管の炎症マーカーも低下し、さらに大腸がんの発症にかかわる二次胆汁酸も低下していました。一方でアフリカ人が欧米食を摂取すると、これらがすべて悪い方に変化していました。このことから、食環境が腸内環境に影響することがわかります。

 このように、欧米人の腸内細菌叢は、原始的な生活をしている人々の腸内細菌叢と比べて多様性が低下していることが知られていますが、マウスの実験で高脂肪・低繊維食の摂食は腸内細菌叢の多様性の低下を招きますが、同一世代ではその後高繊維食を摂食すると腸内細菌叢の多様性が回復しましたが、世帯を超えて高脂肪・低繊維食を摂食すると、その後高繊維食を摂食しても多様性は回復しませんでした。これは、動物実験ではありますが、日本人の食の欧米化に対する注意喚起とも言えます。

 

 食物繊維は腸内環境を良くすることはお話しました。では、知らず知らずのうちに腸内環境を悪くする物にどんな物があるのでしょうか。

 

 最近、報告されている物に食品添加物があります。食品添加物は人の健康を損なわない、国が安全性を認めた物ですが、その中に腸内細菌叢に悪影響することがわかってきたものがあります。その一つに人工甘味料があります。人工甘味料は消化管から吸収されずに大腸に届き、腸内細菌叢の変化を招き、その結果耐糖能の悪化を招くことがわかってきました。また、食品添加物の一種である乳化剤についても動物実験レベルではあるものの、乳化剤の摂取は腸内細菌叢の変化を招き大腸炎の発症を促し、肥満や血糖値の上昇といったメタボリック症候群を引き起こすことが明らかになっています。

 

 腸内細菌叢が我々の身体に大きな影響をおよぼしていることは明らかです。その腸内細菌叢に影響をおよぼすものは食事です。食を改善し腸内細菌叢を良い状態にすることが健康維持には大きく関係しています。


昭和堂薬局 | 2016年4月22日

 

佐藤店長の漢方処方解説~婦宝当帰膠~

当帰

 

 いつも当店のホームページを閲覧いただきましてありがとうございます。

これから時々、コラムに登場することになりました。ポルタ店店長の佐藤直哉と申します。

 

 漢方薬は皆様にとってあまり馴染みの無いものであると思いますが、そんな漢方薬に少しでも興味を持って頂けるよう、この処方解説を通して、東洋医学の考え方をシリーズでお伝えしていこうと思います。

 漢方薬には様々な処方がありますが、私が特に愛着のある処方を順次掲載させていただきたいと思います。もしこのホームページをご覧の方で、この処方を解説してみて!などのリクエストがございましたら、ぜひ店頭でお申し付けください。

 

 第一回目となる今回は“婦宝当帰膠”です。

 婦人科の漢方薬としては割と有名な処方なのではないでしょうか。あまり有名じゃないと思われた方も最後まで読んでいただければ幸いです。

 

婦宝当帰膠

原典:当帰養血膏(とうきようけつこう)

薬味:当帰(とうき)黄耆(おうぎ)地黄(じおう)芍薬(しゃくやく)茯苓(ぶくりょう)

甘草(かんぞう)川芎(せんきゅう)党参(とうじん)阿膠(あきょう)白糖および黒糖

主治:肝血虚

効能:補血調経

症候:面色蒼白あるいは萎黄無華・頭暈目花・両目干渋・口唇舌爪甲淡白無華・頭髪不栄・多夢失眠・耳鳴耳聾・四肢麻木・筋脈拘攣・婦女は月経過少あるいは経行後期。

と、教科書には記載されていますが、これでは解りません。

 

 まず原典にある当帰養血膏の“膏”の字、これは膏剤ですよという意味ですが、膏というと“塗り薬=軟膏”を想像する方が多いと思います。膏剤には内服膏剤と外用膏剤の二種類があります。

当帰養血膏は内服膏剤の中でも煎膏剤と呼ばれるものに分類され、生薬の浸出液を濃縮してから蜂蜜や砂糖などを加えて作った濃厚な半固形製剤で、甘いので飲みやすく、慢性疾患や虚弱な人に使いやすいという利点があります。

 

 では処方についての解説に移りましょう。

薬味(各生薬)の解説をしても、つまらないと思われる方が多いと思いますので割愛させていただきます。(興味のある方はリクエストしていただければ追々書いていきます。)

主治の肝血虚って何?

東洋医学では身体の構成材料は気・血・津液(しんえき)・精の4つと規定してあります。

その働きは主に2つあり、“肌肉・筋脈を濡養す(きにく・きんみゃくをなんようす)”“神志の物質的基礎(しんしのぶっしつてききそ)”と述べています。

肌をしっとりさせ艶のあるものにし、筋肉をしなやかにする。神志とは意識のことで、これは誰かを意識するの意識ではなく、意識を失う=眠りを安定させるという意味になります。意識、無意識の切り替えをはっきりさせると考えると良いでしょう。

この血は古書において“人動なれば即ち血は諸経に運び、人静なれば即ち血は肝の臓に帰す”と云われており、また五臓の一つである“肝”の働きとして“肝は血を蔵す”とも云われております。

肝が血の貯蔵タンクとなっていると考えて下さって構いません。

つまり、血が不足する=肝血虚ということになります。

次に、効能・症候の解説をしてみましょう。

補血調経とあります。補血は血を補うの意味で、調経とは月経を調えるの意味になります。月経は妊娠に使われなかった子宮内膜が剥がれ落ちることですが、見かけ上は血液が出ています。1回の生理につき約200mlの血液が失われています。月経の有る女性は毎月この分の血液を非生理時に作らなくてはなりません。食べるもののバランスも重要ですが、それでも足りなければ月経量が少なくなるか遅れることになります。

症候がたくさんあるのですが、言葉の意味さえ理解できればあまり難しいことはありません。

面色蒼白あるいは萎黄無華(めんしょくそうはくあるいはいおうむか):顔色が青白いもしくは肌にくすみがあり艶が無い

頭暈目花(ずうんもっか):めまいがして目がかすむ

両目干渋(りょうもくかんじゅう):目が乾く

口唇舌爪甲淡白無華(こうしんぜつそうこうたんぱくむか):唇や舌、爪、手の甲が乾燥していたり割れやすい

頭髪不栄(とうはつふえい):髪の毛がパサついたり、艶が無い

多夢失眠(たむしつみん):睡眠が浅い。夢をよく見る

耳鳴耳聾(じめいじろう):耳鳴りがしたり、テレビの音が大きいと家族に言われる

四肢麻木(ししまぼく):手足がしびれる。因みに“麻”という漢字にはしびれるという意味があり、皆さんにおなじみの麻婆豆腐はしびれるくらいに美味しいという意味があるそうです。

筋脈拘攣(きんみゃくこうれん):よく脚がつる。脚だけでなくても構いません。

婦女は月経過少あるいは経行後期(ふじょはげっけいかしょうあるいはけいこうこうき):効能の説明のところでも書かせていただきましたが、血の不足があると出血することができないため月経量が少なくなるか遅れることです。

 

 婦宝当帰膠は血を補うためには最も薬力のある処方と考えていただいて良いと思います。不妊などでお悩みの方には有名な漢方薬となっていますが、年齢を問わず女性であれば生理のことだけではなく美しさを保つ要薬になるのではないでしょうか。

 

 まだまだお伝えしたいことがたくさんあるのですが、今回は此処までとさせていただきます。また次回以降、皆様に少しでも東洋医学の面白さをお伝えできればと思っております。

(佐藤直哉)


昭和堂薬局 | 2016年4月11日

 

やすらぎ通信 平成28年春彼岸

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 やすらぎ通信を書き始めて、今回で7回目になりました。

最近は、テレビや雑誌などの影響で、一般の方たちにも漢方が知られるようになってきましたが、番組を面白くするためか情報を簡単に伝えるためか、中には「そんなこと言っていいの?」と思うことがあります。前号では、風邪の漢方イコール葛根湯ではないことをお話しましたが漢方も薬ですから正しい使い方をしていただきたいと思っています。そこで、今回はテレビCMでよく耳にした古典の原文をご紹介しながら、東洋医学(漢方)について解説したいと思います。

 

帝曰く、人 年老いて子なき者は、材力尽きたるか、将(は)たまた天数然るか。岐伯曰く、女子は七歳にして腎気盛し、歯更(かわ)り髪長ず。二七にして天(てん)癸(き)至り、任脈通じ、太衝の脈盛し、月事時を以て下る。故に子あり。三七にして腎気平均す。故に真牙生じて長極まる。四七にして筋骨堅く、髪の長極まり、身体盛壮なり。五七にして陽明の脈衰え、面初めて焦(やつ)れ、髪初めて堕(お)つ。六七にして三陽の脈上に衰え、面皆焦れ、髪初めて白し。七七にして任脈虚し、太衝の脈衰少し、天癸渇き、地動通ぜず。故に形壊(つい)えて子なきなり。丈夫は八歳にして腎気実し、髪長じ歯更る。二八にして腎気盛し、天癸至り、精気溢写し、陰陽和す。故に能く子あり。三八にして腎気平均し、筋骨勁強たり。故に真牙生じて長極まる。四八にして筋骨隆盛にして、肌肉満壮たり。五八にして腎気衰え、髪堕ち歯槁る。六八にして陽気上に衰竭し、面焦れ、髪鬢頒白たり。七八にして肝気衰え、形体皆極まれり。八八にして則ち歯髪去る。腎は水を主り、五臓六腑の精を受けてこれを蔵す。故に五臓盛なれば、乃ち能く写す。今五臓皆衰え、筋骨解堕し、天癸尽きたり。故に髪鬢白く、身体重く、行歩正しからずして、子なきのみ。

 

 この文章を簡単に解説すると、人の成長や老化を具体的に示したもので、女性は7歳ごとに成長し、28歳~35歳ぐらいまでに精力がピークになりその後衰えていく様を現し(二七は2×7で14歳のことです。)男性は、8歳ごとに成長、老化が起こると言っています。この「黄帝内径」は約2千年前の書物といわれていますが、女性は14歳(二七)で生理が起こり、49歳(七七)で生理がなくなると言っていることからも、今も昔も成長・老化はそれほど変わっていないことがわかります。(医学の発達で寿命は延びていますが)

 このことを、漢方的に言うと、「腎」という臓の力の満ち引きであらわされ、五臓の精を受けて精を蓄えています。それゆえ、五臓が盛んであれば年相応でいられますが、五臓が衰えると老いが早まってしまいますということです。2千年前に現代に当てはまるこのような正確な記述があることに、驚かされると共に貴重なことだと思います。また、「黄帝内径」の後に「傷寒論」という古典がありますが、かの有名な「葛根湯」や「麻黄湯」などがここに記載されていて、現代でも薬として用いられていることも漢方の偉大さを物語っています。(西洋医学には2千年も前の薬ってないですよね)

 

 では、今なぜ漢方薬が注目されているのか?

 西洋医学は、病気の場所を見ます。少し違った言い方をすると、病気の場所しか見ません。目の病気であれば目しか見ていません。しかし東洋医学は、体全体のバランスの崩れが目に影響したと見ます。そして、使われる薬も西洋医学では抑えつけたり除いたりする薬を使いますが、東洋医学では主に補う薬で心身のバランスを整えて病気を治そうとします(東洋医学でも抑えつけたり除いたりする薬もありますが)。

 人は、自然界の中で生きています。人のバランスも自然界とは切り離して語ることはできません。また、心と体も切り離せません。人間は自然界も含め心身のバランスで成り立っているのです。

 西洋医学はできてしまった物を外科的にとったり、感染症を起こしていればその原因菌を殺してしまうような治療。このような病気は西洋医学が得意とする分野で、東洋医学は得意ではありません。しかし不足や衰えが原因で起こってしまったような病気は、東洋医学が得意とする分野です。具体的にはアトピーや婦人科疾患、メンタル疾患などが得意疾患として挙げられます。現代は高齢化や食の乱れ、冷蔵庫の普及による冷え(陽の不足)など、不足を起しやすくなってきています。それら時代的背景も漢方が注目される所以かもしれません。

 

 「女性の7歳ごとの変化」についてそれに関連する更年期障害を東洋医学的に見てみましょう。

閉経という正常な生理変化が49歳(七七)前後で起こります。女性であればだれもが通る道です。しかし、黄帝内径にあるように“天癸渇き”(天癸は性ホルモン)といっているように、性ホルモンの急激な変化が生じます。それまで、女性の身体は女性ホルモンで守られてきたので、その守り手がいなくなるのですから、心身に大きな影響を与えることになるのです。しかし、この閉経前後を「更年期」といい心身に不調をきたすと「更年期障害」といいます。何事もなく「更年期」を通過する人も多くいらっしゃいます。最近は男性更年期もありますが、性ホルモンの変化が女性ほど急激でないので症状も緩和なことが多いようです。

 この更年期障害を漢方的にとらえると腎の衰えです。専門的な言い方をすると腎虚です。この更年期障害における腎虚には、腎陰虚と腎陰陽両虚の2つのタイプに分けられます。基本的に女性は陰の性質があり、生理や妊娠、授乳をしてきたこともあり、陰の不足になりやすい傾向にあるようです。そのため、ホットフラッシュや多汗、手足もほてりといった熱症状が起こりやすいのです。このような症状のときは、「知柏地黄丸」や「杞菊地黄丸」などを中心にしていきます。また、陽の不足も伴う場合は「参馬補腎丸」や「至宝三鞭丸」を使います。しかし、この性ホルモンの急激な変化は簡単ではないことが多いので、「知柏地黄丸」や「杞菊地黄丸」に紫河車(胎盤エキス)を併せたり、症状によって他の漢方薬を足したりもしていきます。

 

 今回は、更年期という状態を例に人の老化について解説しました。この連載コラムの第1回目に陰陽について解説していますが、臓腑で中心になるのが腎です。腎は成長、発育、生殖を主る臓腑で、精を貯蔵しています。補腎の漢方薬で有名なのは「八味地黄丸」で、腎陽虚の薬です。おしっこの異常で有名になった処方です。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。加齢による衰えを予防していく養生として補腎の漢方をうまく使うといいですよ。(このやすらぎ通信を編集者も飲んでるんですよ! 紫河車)


昭和堂薬局 | 2016年3月23日

 

「家族みんなで楽しめる」カレールー

カレー

 

 大手食品メーカーのカレールーの宣伝に違和感を感じるのは私だけだろうか?

 

 この商品は、「特定原材料7品目」を使用していないことをうたっている。皆さんは、この広告からどんなイメージをするでしょうか。私は食物アレルギーを持っているお子さんでも食べられるので、他の家族と分けて作らなくてもいいんだなと思うと感じてしまいました。確かに、国が定めた「特定原材料7品目」(アレルギーを起こしやすい、表示が義務化された原材料)は入っていないので、この7品目にアレルギーがある方でも、この製品には入っていないのでアレルギーは起こさないのかもしれませんが、パッケージの裏の原材料を見てください。多くの添加物が使われています。その中にはヤシ油クリーミングパウダーが使われています。私がよく見かけるカレールーにはパーム油がよく使われています。ヤシ油はココナッツオイルのことです。(去年流行った油です)これらの油の組成は飽和脂肪酸、一価の不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸です。多価不飽和脂肪酸はリノール酸で、ω6系脂肪酸です。以前からお知らせしているようにω6系脂肪酸は炎症を起こす油なのです。

 

 昨年の実験医学という本に、「卵白アルブミンを摂取するとアレルギーを呈するマウスの食物アレルギーモデルを用いた検討で、ω6系のリノール酸が多い大豆油を含んだ餌を与えると腸管アレルギー症状が強く出る一方で、ω3系のαリノレン酸が多い亜麻仁油を含んだ餌を与えると腸管アレルギー症状が大幅に緩和した」と出ていました。これはあくまでも動物実験ですので、食物アレルギーがある方がこのようになるとは限らないのですが、脂質、特に多価不飽和脂肪酸の組成は重要なようです。

 

 このことだけとってもこの商品を食物アレルギーがあるお子さんに積極的に食べさせていいのかなと思ってしまいます。

 

 確かに、食物アレルギーのある方がいらっしゃる家庭では食事は非常に神経を使い大変だと思うので、このような商品は便利でいいのでしょうけれど…

 

 我々の体にとって、食は非常に重要です。商品イメージに惑わされることなく、しっかり成分表示を見て選んでもらいたいと思います。


昭和堂薬局 | 2016年2月17日

 

2月7日の読売新聞に主な医療機関の不妊治療実績が掲載されました

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 読売新聞は、昨年高度不妊治療を行う医療機関に2014年の治療実績などをアンケートし、その実績を発表しました。

 

 当店でも子宝についての漢方相談は多く、そのほとんどの方が医療機関にかかられています。ご相談に来られると、一応どこの医療機関に行かれているかを聞いています。最近は人気のあるところはなかなか予約が取れないそうです。しかし、読売新聞の実績を見ても、成績が良い医療機関にかかるのがいいように思いますが、当店に来られる方たちの評判を聞いていると、必ずしも表の上位にあるからいい訳でもないようです。

 

 漢方薬局選びもそうだと思いますが、医療機関を選ぶときも数字だけではなく、相性やその医療機関の姿勢なども考慮して選ぶことが大切なんでしょうね。

 

 今回、読売新聞の実績をみて、今か受診している医療機関を信頼されてるのであれば、すぐに変えたりしないほうがいいように思います。


昭和堂薬局 | 2016年2月10日

 

がんには免疫を上げればいいの?

 アスピリンを長期服用している人達が、服用していない人達と比べ大腸がんの発生が有意に低下することが疫学調査で示されました。アスピリンは非ステロイド性抗炎症薬で、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害してプロスタグランジンという痛みや炎症に関係する物質の生成を阻害する薬です。このことから研究が進み、COXががんの発現や転移、増殖に関係していることがわかってきました。

 

 このプロスタグランジンは、脂質中のリノール酸からアラキドン酸という物質を経てこのCOXによって作り出されます。正常細胞が何らかの影響でCOX-1によってつくられたプロスタグランジンE2が関係し、前がん病変ができ、その後、その組織の間質細胞で誘導型のCOX-2が発現していき、がんを発現させていくのです。

 

 また、国立がん研究センターのコホート研究では、いくつかのがんと魚の摂取量ががん罹患率に関係していることが示されています。この研究の考察では炎症抑制に働く魚に含まれる油の摂取が多いほど、ガンに罹り難いと言っています。

 

 この2つのことから脂質、特に多価不飽和脂肪酸の摂取ががんの発現や転移、増殖に関係がありそうです。

 

 このようにがんに対する研究が進みいろいろなことがわかってきており、疫学データも多く出てきています。

 

 一般的に、がんは何らかの要因で免疫力が下がり、それが原因でがんができてしまうと思われがちですが、それほど単純ではなく身近でも非常に元気な人ががんになってというような経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?確かに免疫が結果的に下がってしまうことはあるかもしれませんが…

 

 がんを予防する為や不幸にしてがんを患ったからといって、やみくもに免疫を上げればいいわけではありません。場合によっては逆にその行為ががん細胞を助けてしまうことにつながる可能性もあります。

 

 がん組織では炎症が起こっています。この炎症が起こらないようにすることががんの予防につながる可能性があるといえるでしょう。


昭和堂薬局 | 2016年1月27日

 

肥満遺伝子

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 日経サイエンスに“姿現す肥満遺伝子”という題目のお正月明けで気にしている方も多い肥満について興味深い記事が載っていたのでご紹介させていただきます。

 

 今日、現代人の肥満が問題視されています。肥満が原因で糖尿病などの生活習慣病が増えてきました。その原因はある遺伝的な変化が原因ではないかというものです。
 人類の祖先となった類人猿は,ある種の酵素の遺伝子が変異した結果、飢餓を生き延びたとみられています。現代における肥満と糖尿病の蔓延は,大昔に生じたこの遺伝子変異のせいである可能性が浮かび上がってきました。
 その遺伝子変異は“ウリカーゼ(尿酸酸化酵素)”という酵素の遺伝子に生じたもので、この“ウリカーゼ”はもともと尿酸を分解する酵素で、この酵素の遺伝子が変異したことによって食べた物を、その場でエネルギーとして燃焼するのではなく脂肪として蓄えられるようになったからだと言っています。しかし、飽食の時代の現在では、この変異が肥満や糖尿病の一因になっているというのです。

 現代の多くの人が慢性的に贅沢な(欧米型)食事を摂り過ぎているため、尿酸を分解する“ウリカーゼ”を持たない人間は尿酸が上昇してしまいます。しかし、食習慣によってこの上昇は変化し、人によってはその食生活で尿酸が上昇したりしなかったりするのです。その原因食品の一つに果糖があげられています。確かに生成された砂糖や加工食品などに使われる異性化糖(ブドウ糖果糖液など)が多く使われています。これらが増えるにつれますます肥満や糖尿病が増えていると指摘しています。これら精製された果糖を減らし、その分新鮮な果物などからとれば、果糖や尿酸の影響を抑えるビタミンCや抗酸化物質が含まれるので様々な病気の予防につながるだろうと述べています。

 

 日経サイエンスで述べている疫学調査や科学的理論については割愛しますが、自然に近い食べ物を食べ、適度に運動することが現代人には必要だと思われます。確かに簡単に摂れる便利な食べ物や飲み物が重宝されていますが、それによって病気が起こっているのであれば、すぐにでも止めたいですよね。


昭和堂薬局 | 2016年1月11日

 

明けましておめでとうございます

通信40号

 

明けましておめでとうございます。本年も変わらぬご愛顧よろしくお願いします。

昨年末に「やすらぎ通信」が出来上がりましたのでご紹介いたします。

 

 このコラムも6回目を迎えます。前回迄は『陰と陽』、『四季の養生法』についてのお話でした。
 今回は養生の考え方から『風邪の対処法』と『お正月の伝統行事』についてお話します。

 

 中国伝統医学の古典黄帝内経(こうていだいけい)では養生の原則を下記のように示しています。『外からの邪』と『内からの邪』を回避する事により病気を防ぐようにすべきとの教えです。
「古代の修養の道理を深く理解した人は、人々を教え導くにあたって常にこう述べたものです。『外界の虚邪賊風(きょじゃぞくふう)に注意して回避すべきときに回避すると共に、心がけは安らかで静かであるべきで、貪欲であったり、妄想したりしてはならない。そうすれば真気が調和し、精神もまた内を守ってすりへり散じることはない。このようであれば病が襲うということがあろうか』と。そのため人々の心はきわめて閑かで、欲望は少なく、心境は安定していて、恐れることはありませんでした。肉体を働かせても過度に疲労することはなく、正気は治まり順調だったのです。それぞれの望むところは満たされ、食べ物をおいしく思い、着たものを心地よく思い、習わしを楽しみ、地位の高低をうらやむことがなく、人々はいたって素朴で誠実でした。正しくない嗜好も彼らの耳目をゆりうごかさず、淫らな邪説も彼らの心情をまどわすことはなかったのです。愚鈍、聡明、有能または不肖な人を問わず何事に対してもまったく恐れることはありませんでした。してみると彼らがあらゆる点で、養生の道理に合致していたことがおわかりでしょう。だから皆が年百歳に達することができて、しかも動作にも少しも衰えたところがなかったのです。これは彼らが養生の道理をすべて掌握していたからであり、こうであってはじめて疾病の危害を召かずにすむのです」。

 

 今の我々を取り巻く環境を見てみると、「あれ?」と思うこと多くないですか?例えば冬に夏野菜がスーパーの店頭に普通にあったり、冬でもアイスクリームを食べている人がいたり…。
 また逆に夏にクーラーで体を冷やしすぎてカイロを付けている人はいませんか。よくみると案外一年を通して季節感がない事をしているのに気がつきます。
 本来、夏は汗をかき冬は汗をかかないものです。春・夏は陽の季節、秋・冬は陰の季節です。近年は地球温暖化などいわれていますが、基本的にはこの原則は二千年前と変わっていません。春・夏は陽気が盛んですから汗をかいて熱を発散してあげなければいけません。しかし、秋・冬は陰が盛んで汗をかいてエネルギーを出してはいけないのです。冬は汗が出るほど暖房をしてはいけないのです。汗をかいてエネルギーである『気』が不足すると、バリア機能が衰えてその隙に寒邪が入り寒気がするような風邪を引いてしまいます。

 

●風邪の対処法

 風邪には風寒邪、風熱邪と風湿邪があります。
 これらの特徴として、風寒邪は寒気、風熱邪はのど痛、風湿邪は下痢・吐き気となり、冬に多い風邪は風寒邪となります。寒邪には、ものを収縮させる性質があるため血管が収縮されて気血の巡りが滞り、手足の冷え、悪寒、節々のこわばりや痛みを起します。毛穴も収縮するため、体の中の熱を外へ放出できなくなり、汗が出ないで悪寒発熱をするようになります。このときは風寒邪を追い出す葛根湯などを使います。葛根湯は有名ですからご存知の方も多いと思います。
 傷寒論という古典に「太陽病、項背強張ること几几(きき)、汗無く悪寒するは、葛根湯これを主る」とある通り寒気がして体の節々が痛み、汗をかいていない風邪の初期に使う処方です。
 漢方薬の特徴は、自然治癒力(自分で病気を治す力)を高めて、免疫力を上げて速やかに治す作用があります。風邪を引きそうな時に早めに飲んで風邪を引かずにすむことが出来ます。しかし、体が弱っている人は、寒邪に侵されても毛穴を閉める力が皮膚にない人もいます。
 じっとり汗が出ていて寒気や発熱が出そうと言う人は、葛根湯を飲んではいけません。この時葛根湯を飲むと風邪が返って悪化する場合もあります。このような人は桂枝湯という薬になります。風邪ならば何でも葛根湯ではないのですよ。

 

●お正月の伝統行事
 お正月の伝統的な行事には、それぞれ意味があります。昨年は『おせち料理』についてお話したので、今回は『お屠蘇』、『鏡開き』、『七草粥』についてお話します。

 

御屠蘇(おとそ)
 日本には元旦の朝、家族一同がそろって屠蘇酒を飲む風習があります。1年間の長寿健康を祈願する慣わしです。数種類の生薬を調合した屠蘇散を、清酒やみりんに一晩漬け込むお祝いのお酒です。諸説ありますが、屠蘇とは「邪気を屠(ほふ)り、心身を蘇らせる」ところから名付けられたと言います。悪鬼・疫病を治し、邪気・毒気を払うとされて、「一人これを呑めば一家病無く、一家これを呑めば一里病無し」と言われ、日本の正月の膳などに呑まれます。

 

鏡開き(かがみびらき)
 鏡開きは、一般的には、歳神様へのお供えが松の内(1月7日)に終わった後、1月11日に行われます。お供えしてあった鏡もちを手や木槌で割る正月行事。正月、神様は全ての人や物に新しい生命を与えるために現れると伝えられています。つまり、「歳をとる」ということは一年に一度新たに生まれ変わるということだったのです。そして、その歳神様の霊力を移しとる道具が鏡餅でした。この鏡餅をお供えし、そのお餅を食べることによって、私たちは新しい生命を歳神様から頂くことが出来ると考えられてきました。1年の無事を感謝する気持ちを込め、更に新年の健康を祈る気持ちは非常に歴史のある日本人固有の文化といえますね。

 

七草粥(ななくさがゆ)
 正月7日の朝、七草の入ったお粥を食べて無病息災を願う風習です。その歴史は古く平安時代から伝わる風習です。江戸時代より一般に定着し江戸幕府の公式行事となり、将軍以下全ての武士が七草粥を食べて『人日(じんじつ)の節句』を祝う慣わしとなりました。
 人日とは、文字通り “人の日” の意味。中国、前漢の時代、東方朔(とうぼうさく)が記した占いの書には、『正月1日に鶏、2日に狗(いぬ)、3日に羊、4日に猪(豚)、5日に牛、6日に馬、7日に人、8日に穀を占ってその日が晴天ならば吉、雨天ならば凶の兆しである』とされていました。また、それぞれの日にその動物を殺さない風習があります。7日目を人の日(人日)とし、犯罪者に対する刑罰は行わないことにしていました。ですから、7日の人の日には邪気を祓うために、七草の入ったお粥を食べ、一年の無事を祈ったのだともいわれています。
 

 七草粥に入れるのは、いわゆる春の七草。初春の野から摘んできた野草の生命力を食して、邪気を祓うということでしょうか。古来、宮中や神社でもこの日七種の野草を摘む行事を “若菜摘み” といい、多くの歌に詠まれたり、能楽(のうがく)のワンシーンとしても登場しています。でもお正月には、まだ野草は芽吹いていないのでは?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。でも旧暦でのお正月は、現在の2月頃。まだ寒さも厳しいながら、陽射しには春を感じる頃です。長い冬が終わりに近付き、野に出て春いちばんの息吹きを持ち帰る、七草粥の行事は新しい年が始まる喜びの行事だったと想像できるのではないでしょうか。
そして現代の私たちにとっても、1月7日に食べる七草粥は、おせち料理で疲れた胃をやさしくいたわる、理にかなった食べ物だといえるでしょう。おもちなどを食べすぎてついつい青菜が不足がちな時期ですからね。七草は、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、それから、スズナ、スズシロですがそれぞれに、効能効果があります。

 

 まず『セリ』には神経痛やリュウマチに効果があります。『ナズナ』は別名ぺんぺん草です。動脈硬化や高血圧に効きます。『ゴギョウ』は咳止めや痰を取りやすくします。この季節風邪の予防には、ピッタリです。ゴギョウには胃の炎症を抑えるという効能もあります。そのほか『ハコベラ』には整腸作用や口臭予防の効果があり、『ホトケノザ』には食中毒や筋肉痛をなくす効果があります。そして『スズナ』、カブです。カブは漢方の分類では、苦くて辛くて甘くて大根と違い温める作用があることです。胃腸を温めて内臓を丈夫にする性質があります。冷えから来る腹痛もやわらげます。体内にある余分な水分を取り除き、解毒作用があります。特に食べたものの滞りを除き、ガスを抜く作用は注目されています。お腹がよく張るという方はよくお召し上がり下さい。最後は『スズシロ』、大根ですが、消化不良、腹が張り、胃が痛むときは、大根をおろしておろし汁をコップ1杯絞り頂いておりました。便秘に利く整腸作用があり、消化酵素が含まれます。まさにお正月の弱った体にぴったりの食べ物ですね。


昭和堂薬局 | 2016年1月6日


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